民法(R5)
【問題文】
[民 法]
次の文章を読んで、後記の 及び に答えなさい。〔設問1〕 〔設問2〕
解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法
令に基づいて答えなさい。なお、民法以外の法令の適用について検討する必要はない。
【事実】
1.Aは、書画骨董品の収集を趣味とする東京在住の個人である。Bは、京都に店舗を有し、掛け
軸、屏風及び衝立等の表装・修理や書画骨董品の売買等を行う専門の事業者である。
2.Aは、令和5年1月頃、自己が所有する掛け軸甲の経年劣化が激しいことに気付き、たまたま
自宅を訪れていたBに甲を見せ、その修復をBに持ち掛けた。Bは、「甲は保存状態が悪く、そ
の修復には高額の費用が見込まれるから、考え直した方がよい。」と述べたが、Aが「甲は大事
な家宝だから、いくら費用が掛かっても修復したい。」と強く主張したため、これに同意するに
至った。
3.Aは、令和5年7月1日、Bとの間で、Bの店舗において、以下の内容を含む契約(以下「本
件請負契約」という。)を締結した。
⑴ Aは、Bに対して、甲を、その修復のため、令和5年7月15日までに預託する。
⑵ Bは、甲の汚損を鑑賞可能な程度にまで修復し、令和6年7月15日までにAに返還す
る。
⑶ Aは、Bに対して、報酬として250万円を甲の返還と引換えに支払う。
4.本件請負契約を締結するに当たり、Bは、Aに、「甲の状態を最後に確認してから半年ほど経
つが、その後どのように保管しているのか。現在も修復可能なのか。」と尋ね、「きちんと保管
しているから大丈夫だ。」との回答を得た。Bは、個人宅での保管であることから甲の現在の状
態に疑念を抱き、「蓋を開けてみたら修復不能なほどに傷んでいた、などと言われても知りませ
んよ。」と念を押した上で本件請負契約を締結した。
5.Aは、個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い
屋外の物置に放置したため、本件請負契約の締結に先立つ令和5年6月15日頃までに、甲は原
型をとどめないまでに腐敗し、修復することができなくなってしまった(以下「本件損傷」とい
う。)。
6.Aは、本件請負契約の交渉過程において、甲の状態を確認しておらず、Bから数回にわたって
「甲の状態や保管方法に問題はないか。」と問い合わせられても「問題ない。」と答えるのみで
放置していたため、本件請負契約を締結した時点では、本件損傷の事実を知らなかった。Aは、
令和5年7月13日、甲を梱包するために物置から取り出したところ、本件損傷に気付き、直ち
にBに連絡し、Bは自ら本件損傷を確認した。
7.Bは、令和5年7月2日から同月10日にかけて、甲の修復に要する材料費等の費用一切とし
て40万円を支払っていた。
8.Bは、「本件請負契約は有効に成立しており、甲の修復ができないのはAの問題である。」と
して、Aに対して250万円の支払を請求している。これに対して、Aは、「本件請負契約は無
効である。仮に有効だとしても、甲が現に修復されていない以上、金銭を支払う理由はない。」
と反論している。
〔設問1〕
【事実】1から8までを前提として、BのAに対する請求が認められるかどうか、認められると
した場合にはどのような範囲で認められるかについて、法的根拠を明示しつつ論じなさい。なお、利息及び遅延損害金について検討する必要はない。
【事実】
9.Bは、令和5年4月27日、コレクターCとの間で、Cが所有する古美術の壺乙に関して、次
の内容を含む契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した上で、同日、Cから乙の引渡し
を受け、これをBの店舗内に展示することになった。
⑴ Bは、Cから引き渡された乙につき、これを無償でCのために善良なる管理者の注意義務
をもって管理し保管するものとする。他方で、CはBに対し、乙をBの店舗内において顧客
に展示し、Bの名において販売する権限を与えるものとする。
⑵ Bが乙を顧客に対して販売したときは、CがBに対し乙を代金180万円で販売する旨の
契約が当然に成立するものとし、乙の所有権は、CからBに直ちに移転するものとする。な
お、BのCに対する代金の支払期限は、当該売買契約成立日の翌月末日とする。
⑶ Bは、乙につき顧客に対して販売する前にCから返還請求があったときは、乙の顧客への
販売権限を当然に失い、直ちに、乙をCに対し返還しなければならないものとする。
10.令和5年5月初めから、Bの店舗には、顧客Dが頻繁に訪れて、展示物を鑑賞していた。なか
でも、Dは乙に強い関心を示し、Bにいろいろと質問をしたため、BはDの質問に答えたが、そ
の際、〔 ア 〕。同月25日頃、BはDに対して、200万円で乙を販売してもよいという意
向を示した。それに対してDは、しばらく考えたいと返事を留保した。
11.令和5年6月1日、Cは、Bの資金繰りが悪化したとの情報を入手したため、Bに対し、本件
委託契約の契約条項⑶に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発し、当該通知は同日中にBに到
達した。しかし、Bは乙の展示を継続した。
12.令和5年6月2日、Bは、前記11の通知を受けたにもかかわらず、Bの店舗を訪れて乙購入の
意向を示したDとの間で、Bを売主、Dを買主とし、代金を200万円とする乙の売買契約を締
結した。Bは、乙を無償でDの自宅に後日配送するものとし、Dは、その場で代金200万円の
全額を支払った。売買契約時、Dは乙について、〔 イ 〕と信じていた。Bは、Dとの売買契
約が成立した直後に、Dに対し、「乙は、以後DのためにBが保管する。」と告げ、売却済みの
表示を施した。その後、Bは、乙を梱包してBの店舗のバックヤードに移動した。
13.Cが、令和5年6月3日、Bの店舗に赴いたところ、バックヤードで梱包済みの乙を発見し、渋る
Bを説き伏せて乙の引渡しを受け、自宅に持ち帰った。後日、Dは、Cに対し、乙の引渡しを請求し
た。
〔設問2〕
【事実】9から13までを前提として、次の問いに答えなさい。
⑴ 本文中空欄〔 ア 〕〔 イ 〕に、次の語句が入る場合に、DはCに対して、所有権に基づ
いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
〔 ア 〕=乙の所有者がCであることは説明しなかった
〔 イ 〕=Bが所有者である
⑵ 本文中空欄〔 ア 〕〔 イ 〕に、次の語句が入る場合に、DはCに対して、所有権に基づ
いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
〔 ア 〕=本件委託契約の契約書を示して、Cから委託を受けて、Bは乙の売却権限を有し
ている旨を説明した
〔 イ 〕=Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有している
【メモ】
●自己評価:C
・代理ではない点には気付いたが、その点を指摘して、類推の基礎も指摘すべきだった。手順を踏むことが大切。
【答案例】
第1 設問1
1.成立:令和5年7月1日。412条の2第2項
Aは過失(95条3項本文)
Bは専門家ゆえ高度の注意義務。しかしSAFE
「同一の錯誤」☓
2.完成・引渡なし(633条)All☓
3.40万円のみ(415条1項本文、416条)
第2 設問2
1.192条
(1)売買契約「取引行為」〇
(2)「平穏」・「公然」〇(186条1項)
(3)「善意」〇・無過失〇(188条)
(4)「占有」〇(183〇、表示、バックヤード梱包)占有改定を超える。
2.
(1)他人物売買権限付与(109条類推)
(2)①表示☓(「契約書」)
②帰責性☓(6月1日の翌日6月2日には。⇔乙の回収・解除契約)
③善意無過失☓(契約書(他人間)のみ見てでは…)
以上