(民事)法律実務基礎科目(R6)
【問題文】
[民 事]
司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。ただし、XのYに対する金銭債権に係る請求については検討する必要がない。
以下の設問中に「別紙」において定義した略語を用いることがある。
〔設問1〕
別紙1【Xの相談内容】は、弁護士PがXから受けた相談内容を記載したものである。弁護士Pは、令和6年7月5日、別紙1【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとし、本件訴訟における訴状(以下「本件訴状」という。)を作成し、裁判所に提出した。
これに対し、弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたY(代表取締役A)から別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】のとおり相談を受け、Yの訴訟代理人として本件訴訟を追行することにした。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
⑴ 弁護士Pが、本件訴訟において、選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
⑵ 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第134条第2項第2号)を記載しなさい。なお、付随的申立てについては、考慮する必要がない。
⑶ 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項。以下同じ。)を記載しなさい。解答に当たっては、本件訴訟において、Yが、別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】に沿って認否することを前提とすること。なお、いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとして、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
⑷ 弁護士Qは、別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(a)を前提に、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。弁護士Qが本件答弁書において抗弁として記載すべき具体的事実を記載しなさい。
〔設問2〕
第1回口頭弁論期日において、本件訴状及び本件答弁書が陳述され、弁護士P及び弁護士Qは、それぞれ、次回期日である第1回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。
⑴ 弁護士Pは、別紙1【Xの相談内容】の下線部の(ⅰ)及び(ⅱ)の各言い分について、再抗弁として主張すべきか否かを検討している。弁護士Pが、上記(ⅰ)及び(ⅱ)の各言い分について、それぞれ、①再抗弁として主張すべきか否かの結論を記載するとともに、②(a)再抗弁として主張すべき場合には、再抗弁を構成する具体的事実を記載し、(b)再抗弁として主張しない場合には、その理由を説明しなさい。
⑵ 弁護士Qは、弁護士Pから再抗弁を記載した準備書面(以下「原告準備書面」という。)が提出されたことを受けて、別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(b)を前提に、以下のような再々抗弁を記載した準備書面(以下「被告準備書面」という。)を作成した。
(ア) Aは、Xに対し、令和4年11月9日、アンティーク腕時計(本件商品)を代金200万円で売った。
(イ) 〔 〕
(ウ) Aは、Xに対し、令和6年3月20日、(ア)の代金債権をもって、本件延滞賃料と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
①上記〔 〕に入る具体的事実を記載するとともに、②その事実を主張した理由を簡潔に説明しなさい。
〔設問3〕
第1回弁論準備手続期日において、原告準備書面及び被告準備書面が陳述され、弁護士Pは、次回期日である第2回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。
その後、弁護士Pは、Xから更に別紙1【Xからの聴取内容】のとおりの事情を聴取した。
これを前提に、以下の各問いに答えなさい。
⑴ 弁護士Pは、別紙1【Xからの聴取内容】を前提に、被告準備書面の再々抗弁に対し、再々々抗弁として、以下の各事実を主張することにした。
(あ) Xが、Aに対し、令和5年3月23日、代金200万円とした本件商品の代金額につき、50万円とするよう申し入れ、XとAとの間で上記代金額につき争いがあった。
(い) XとAは、上記(あ)につき互いに譲歩し、令和5年4月10日、本件商品の売買代金債権総額を100万円に減額する旨の和解をした。
(う) 〔 〕
①上記〔 〕に入る具体的事実を記載するとともに、②上記(あ)及び(い)の事実に加えて、上記(う)の事実を主張すべきと考えた理由につき、和解契約の法律効果について触
れた上で、簡潔に説明しなさい。
⑵ 第2回弁論準備手続期日において、弁護士Pは、上記⑴のとおり再々々抗弁を記載した準備書面を陳述し、弁護士Qは、再々々抗弁事実のうち上記⑴(い)の事実(以下「本件事実」という。)につき「否認する。X主張の和解合意をした事実はない。」と述べた。
同期日において、弁護士Pは、本件事実を立証するため、別紙2の和解合意書(以下「本件合意書」という。)を提出し、書証として取り調べられた。これに対し、弁護士Qは、本件合意書のうちA作成部分の成立の真正について「否認する」との陳述をした。
(ⅰ) 裁判所は、本件合意書のA作成部分の成立の真正について判断するに当たり、弁護士Qにどのような事項を確認すべきか。①結論を答えた上で、②その理由を簡潔に説明しなさい。
(ⅱ) 弁護士Pは、本件事実を立証するに当たり、今後どのような訴訟活動をすることが考えられるか。証拠構造や本証・反証の別を意識し、上記(ⅰ)で裁判所が確認した事項に対する弁護士Qの回答により場合分けした上で簡潔に説明しなさい。
〔設問4〕
仮に、本件訴訟の口頭弁論が令和6年11月5日に終結し、同年12月3日、Xの請求を全部認容する判決が言い渡され、その後、同判決が確定したとする(以下、この確定した判決を「本件確定判決」という。)。しかし、Yが本件建物の収去及び本件土地の明渡しをしないため、Xが、本件確定判決に基づき、強制執行の申立てをしようとしたところ、本件建物の所有権が同年10月14日にYからZに移転していたことが判明したとする。
この場合、①Xが強制執行を申し立てるに当たって、どのような不都合が生じるか、②その不都合を防ぐために、Xがあらかじめ採るべきであった法的手段は何か、それぞれ簡潔に説明しなさい。
(別紙1)
【Xの相談内容】
「私は、令和2年7月1日、Aに対し、店舗用建物を所有する目的で、私所有の土地(以下「本件土地」という。)を、賃料月額10万円、毎月末日に翌月分払い、期間30年間の約束で賃貸しました(以下「本件賃貸借契約」という。)。
Aは、令和2年8月中には、本件土地上に店舗用建物(以下「本件建物」という。)を建てて、本件建物で高級腕時計の販売を始めました。Aは、令和5年3月17日、本件建物の所有権を現物出資し、時計等の販売を目的とする株式会社Yを設立して自ら代表取締役に就任し、同日、Yに対し、本件建物の所有権移転登記をしました。そして、Aは、私が承諾していないにもかかわらず、同日、Yに対し、本件土地を賃貸しました(以下「本件転貸借契約」という。)。以後、Yが本件建物を店舗として利用しています。私は、Aに対し、本件転貸借契約について抗議するつもりでしたが、同年5月10日、Aは脳梗塞で倒れて入院してしまい、それ以降、賃料が支払われなくなりました。
私は、Aの体調が回復したことから、Aに対し、令和6年3月7日、令和5年6月分から令和6年3月分までの10か月分の延滞賃料100万円(以下「本件延滞賃料」という。)の支払を2週間以内にするように求めましたが、Aは支払おうとしません。
私は、本件延滞賃料に関するAとの話合いは諦め、Aに対し、令和6年3月31日到達の内容証明郵便をもって、(ⅰ)賃料不払を理由として本件賃貸借契約を解除するとともに、(ⅱ)本件土地の無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除しました。Yは、何ら正当な権原がなく本件建物を所有して本件土地を占有していますので、Yに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めたいと思います。」
【Y(代表取締役A)の相談内容】
「(a)Xは、令和2年7月1日、私(A)に対し、店舗用建物を所有する目的で、本件土地を賃料月額10万円、毎月末日に翌月分払い、期間30年間の約束で賃貸して(本件賃貸借契約)、これに基づいて本件土地を引き渡しました。その後、私(A)は、令和2年8月に本件土地上に本件建物を建て、同所で腕時計販売店を経営していましたが、令和5年3月17日、本件建物の所有権を現物出資して、時計等の販売を目的とする当社(Y)を設立するとともに、同日、当社(Y)に対し、賃貸期間の定めなく、賃料月額10万円で本件土地を賃貸し(本件転貸借契約)、これに基づいて本件土地を引き渡しました。しかし、Xは、令和6年3月31日到達の内容証明郵便で本件賃貸借契約を解除すると伝えてきました。Xは、本件賃貸借契約の解除の理由として、私(A)から当社(Y)への本件土地の無断転貸を挙げていますが、個人で腕時計販売店をしていた私(A)が、全額を出資し、腕時計販売を目的とする当社(Y)を設立して、自ら代表取締役に就任したものであり、当社(Y)には他の役員や従業員はおらず、本件建物は引き続き腕時計販売店として使用し、私(A)一人で営業に当たっていたのですから、Xには何も迷惑をかけていません。Xが本件土地を所有していることや、当社(Y)が本件建物を所有していることは事実ですが、上記の解除の主張は不当であり、当社(Y)はXに本件土地を明け渡す義務はないと思います。
(b)また、私(A)は、Xに対し、令和4年11月9日、アンティーク腕時計(以下「本件商品」という。)を代金200万円とし、うち100万円を契約日に支払い、残りの100万円は令和5年5月9日限り私(A)の口座に振り込んで支払う約束で売り、契約日に本件商品を引き渡しました。しかし、Xは契約日に100万円を支払ったものの、残りの代金100万円の支払がなかったため、私(A)は、Xに対し、令和6年3月20日、この未払代金100万円と本件延滞賃料とを対当額で相殺する旨を電話で伝えました。」
【Xからの聴取内容】
「Yが主張するとおり、私は、Aから、令和4年11月9日、本件商品を代金200万円で購入し、代金のうち100万円をその日に支払いました。しかし、私は、本件商品を製造から50年以上が経過したアンティーク商品だと思って200万円で購入したのですが、令和5年3月20日頃、製造年代がAの説明とは異なっており、実際には50万円程度の価値しかないことを知ったのです。そのため、私は、Aにだまされたと思い、同月23日、Aに本件商品の代金額を50万円にするよう申し入れました。これに対し、Aは当初、本件商品の代金額は200万円が相当だと言っていましたが、その後、話し合った結果、同年4月10日、Aとの間で、「本件商品の売買代金債権総額を100万円に減額する」との内容で和解しています(以下「本件和解」という。)。その後、Aは、令和6年3月20日になって、本件商品の未払代金が残っていることを前提に本件延滞賃料と相殺する旨を伝えてきたのですが、上記のとおり既に本件和解が成立している以上、相殺には理由がありません。
なお、本件和解については、私がAとの間で和解が成立した令和5年4月10日の当日に作成した和解合意書(本件合意書)が存在します。」
(別紙2)
(注) 斜体部分は手書きである。
和解合意書
1 甲(A)が、令和4年11月9日、乙(X)に対して、200万円で売却したアンティーク腕時計について、その売買代金額に争いが生じたが、甲と乙は、互いに譲歩した結果、本日、上記腕時計の売買代金債権総額を100万円とすることで合意した。
2 なお、乙は、甲に対し、令和4年11月9日、上記腕時計の代金として、100万円を支払済みである。
(以下略)
令和5年4月10日
甲(売主)A
乙(買主)X X印
【メモ】
●自己評価:E
●要件事実を徹底する。
【答案例】
第1 設問1
1.小問(1)
所有権に基づく妨害排除請求権としての土地収去建物明渡請求権 1個
2.小問(2)
被告は、原告に対し、本件建物を収去し、本件土地を明け渡せ。
3.小問(3)
・XとYとは、令和2年7月1日、本件土地を、賃料月額10万円、翌月末日払い、期間30年で貸し渡した。
・基づく引渡し
・Yは、Xに対し、令和5年3月17日、本件土地を転貸した。
・基づく引渡し
4.小問(4)
・背信行為と認めるに足りない特段の事情あり。一人で営業し、腕時計販売店、他の従業員もいない。●書くなら、全額出資や代表取締役とも。
第2 設問2
1.小問(1)
①(i)は主張すべきではない。(ii)は主張すべき。
②(1)催告、相当期間の経過、解除の意思表示、(2)令和5年4月10日に相殺の抗弁により消滅。主張自体失当。●追記:日付誤り。Xの聴取内容(和解)は、その後の話。
2.小問(2)
①Aは、Xに対し、令和4年11月9日、本件商品を引き渡した。
②(双務契約なので)相手方には同時履行の抗弁権(民法533条本文)があり、それを奪わなければ、主張自体失当となるため。
第3 設問3
1.小問(1)
①Xは、令和4年11月9日、Aに支払済みの100万円について、返還請求権を放棄し、当該100万円の支払いに充当する旨の合意をした。
②和解契約は、過去の債権債務を清算することから、改めて履行があったことを確認するため。
2.小問(2)
(i)①Aの署名の真正か、それが真正であることを前提に契約の成立を争うのか。
②X印に相当するY印の印影が存在しないことから、そこまでされて契約成立をいう当事者意思があるため。●注記:後付け
(ii)前者であれば、文書の性質の真正が推定される(民訴法228条4項)ことから、反証で足りる、即ち真偽不明にすれば足りるが、後者であれば、推定されないから、本証まで必要。
第4 設問4
①訴訟には当事者恒定効がないことから(民訴法114条1項)、Zについて訴訟承継(同50条)を申し立てなければならないが、そもそも覚知困難。
②処分禁止の仮処分(民事保全法23条1項、55条1項、64条)。
以上