(民事)法律実務基礎科目(R3)

【問題文】

司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。

〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。

【Xの相談内容】
「私(X)は,娘の夫であるYから,会社員を辞めて骨董品店を開業したいので甲建物を貸してほしいと頼まれ,Yの意志が固かったことから,これに応ずることにしました。私は,Yとの間で,令和2年6月15日,私が所有する甲建物について,賃貸期間を同年7月1日から3年間,賃料を月額10万円として毎月末日限り当月分を支払う,敷金30万円との約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,Yから敷金30万円の交付を受け,同年7月1日,Yに甲建物を引き渡しました。私は,契約締結の当日,市販の賃貸借契約書の用紙に,賃貸期間,賃料額,賃料の支払日及び敷金額を記入し,賃貸人欄に私の氏名を,賃借人欄にYの氏名をそれぞれ記入して,Yの自宅を訪れ,私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をし,賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。)
を完成させました。
 Yは,間もなく,甲建物で骨董品店を開業しましたが,その経営はなかなか軌道に乗らず,令和2年7月30日に同月分の賃料の一部として5万円を支払ったものの,それ以降は,賃料が支払われることは全くありませんでした。
 そこで,私は,Yに対し,令和2年7月分から同年12月分までの賃料合計60万円から弁済済みの5万円を控除した残額である55万円の支払を請求したいと思います。私は,支払が遅れたことについての損害金の支払までは求めませんし,私自身が甲建物を利用する予定はありませんので,甲建物の明渡しも求めません。
 なお,Yは,現在,友人であるAに対して,令和2年12月2日に壺を売った50万円の売掛債権を有しているものの,それ以外には,めぼしい財産を有していないようです。Yは,これまでのところ,この売掛債権の回収に着手しておらず,督促をするつもりもないようですが,Aがこの代金を支払ってしまうと,私の未払賃料債権を回収する手段がなくなってしまうので心配しています。」

 弁護士Pは,令和3年1月12日,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することにした。

 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1)  弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
(2)  弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮する必要はない。
(3) 弁護士Pが,本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)を記載しなさい。
(4) 弁護士Pは,本件訴状において,「Yは,Xに対し,令和2年7月30日,本件賃貸借契約に基づく同月分の賃料債務につき,5万円を弁済した。」との事実を主張した。
 (i) 裁判所は,上記事実の主張をもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結論と理由を述べなさい。
 (ii) (i)のほかに,上記主張は本件訴訟においてどのような意味を有するか。簡潔に説明しなさい。

〔設問2〕
 弁護士Pは,Yから未払賃料を確実に回収するために,Aに対する売掛債権を仮に差し押さえた上で本件訴訟を提起する方法と,Yに代位してAに対して50万円の売買代金の支払を求める訴えを提起する方法とを検討したが,【Xの相談内容】の下線部の事情を踏まえ,後者の方法ではなく,前者の方法を採ることとした。その理由について説明しなさい。

〔設問3〕
 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。

【Yの相談内容】
「(a)  私(Y)は,Xの娘の夫に当たります。
 私は,令和2年7月1日から甲建物で骨董品店を営業していますが,Xから甲建物を賃借したのではなく,無償で甲建物を使用させてもらっています。したがって,私が甲建物の賃料を支払っていないのは当然のことです。私は,本件契約書の賃借人欄に氏名を書いていませんし,誰かに指示して書かせたこともありません。私の氏名の横の印影は,私の印鑑によるものですが,私が押したり,また,誰かに指示して押させたりしたこともありません。
 (b)  ところで,令和3年1月8日,Xの知人を名乗るBが私を訪れました。話を聞くと,令和2年8月1日,Xに,弁済期を同年10月15日として,50万円を貸したが,一向に返してもらえないので,督促を続けていたところ,令和3年1月5日,Xから,その50万円の返還債務の支払に代えて,私(Y)に対する令和2年7月分から同年12月分までの合計60万円の賃料債権を譲り受けたので,賃料を支払ってほしいとのことでした。もちろん,私は,Xから甲建物を賃借したことなどありませんので,Bの求めには応じませんでした。もっとも,Bの話が真実であれば,仮にXの言い分のとおり本件賃貸借契約締結の事実が認められたとしても,私が賃料を支払うべき相手はBであってXではないので,Xからの請求は拒むことができるのではないでしょうか。ただし,私はXからこの債権譲渡の通知を受けておらず,私がこの債権譲渡を承諾したこともありません。この場合でも,私はXからの請求を拒めるのか教えてください。
 (c)  また,Xの言い分が認められるのであれば,私はXに対して敷金30万円を差し入れていることになるはずです。したがって,Xの言い分が認められる場合には,上記敷金返還請求権をもって相殺したいと考えています。」

 弁護士Qは,【Yの相談内容】を前提に,Yの訴訟代理人として,本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。

 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1)  弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)を踏まえて,本件答弁書において,抗弁を主張した。
 (i)  弁護士Qが,本件答弁書において,【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために主張すべき要件事実(主要事実)を全て記載しなさい。
 (ii)  弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)の下線部の質問に対して,「Xからの請求を拒むことができる」と回答した。その理由を簡潔に説明しなさい。
(2)  弁護士Qは,【Yの相談内容】(c)を踏まえて,本件答弁書において抗弁を主張できないか検討したが,その主張は主張自体失当であると考えて断念した。弁護士Qが主張自体失当と考えた理由を簡潔に説明しなさい。

〔設問4〕
 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日において,弁護士Pは,本件契約書を書証として提出し,それが取り調べられ,弁護士Qは,本件契約書のY作成部分につき,成立の真正を否認し,「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,Xが盗用した。」と主張した。
 その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,本件賃貸借契約の締結につき,Xは,次の【Xの供述内容】のとおり,Yは,次の【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した(なお,それ以外の者の尋問は実施されていない。)。

【Xの供述内容】
「Yは,私の娘の夫です。私は,令和2年6月頃,Yから,『この度,会社員を辞めて,小さい頃からの夢であった骨董品店を経営しようと思います。ついては,空き家になっている甲建物を賃貸していただけないでしょうか。』との依頼を受けました。Yの言うとおり,甲建物は長年空き家になっており,時々様子を見に行くのも面倒でしたので,ちょうどよいと思い,Yに賃貸することにしました。その後,私とYは賃料額の交渉を行い,私は近隣の相場を参考にして,月額15万円を提案したのですが,Yからは,採算がとれるか不安なので月額10万円にしてくださいと懇願されたため,これに応ずることにしました。
 私は,令和2年6月15日,Yとの間で,私の所有する甲建物について,賃貸期間を同年7月1日から3年間,賃料を月額10万円として毎月末日限り当月分を支払う,敷金30万円との約定で賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結しました。私は,契約締結の当日,市販の賃貸借契約書の用紙に,賃貸期間,賃料額,賃料の支払日及び敷金額を記入し,賃貸人欄に私の氏名を,賃借人欄にYの氏名をそれぞれ記入して準備をして,Yの自宅を訪れ,私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をして,本件契約書を完成させました。また,私は,その際,Yから現金で敷金30万円の交付を受けています。本来であれば,Yの方が私の自宅に来るべき筋合いでしたが,私は孫への会いたさから,週に2日はYの自宅を訪れていましたので,そのついでに契約書を作成することにしたのです。ちなみに,Yは,この時,いわゆる三文判で押印しておりましたが,契約書を作成するのに礼儀知らずだなと思った記憶があります。
 私は,令和2年7月1日,Yに対し,甲建物を引き渡し,Yは甲建物で骨董品店を開業しました。ところが,Yの骨董品店の経営はなかなか軌道に乗らず,同月30日には,同月分の賃料の一部として5万円の支払を受けましたが,それ以降は,賃料が支払われることは全くありませんでした。もっとも,Yは私の娘の夫ですし,開業当初は何かと大変だろうと考え,その年の年末までは賃料の請求をするのを差し控えてきましたが,一言の謝罪すらないまま令和3年になりましたので,本件訴訟を提起することにしました。
 なお,最近,私の妻が体調を崩したため,娘はしばしば私の家に泊まって看病をするようになりましたが,Yと私の娘が別居したという事実はありません。」

【Yの供述内容】
「私は,令和2年6月15日,妻の父であるXから甲建物を借り,同年7月1日から骨董品店の店舗として使用しています。しかし,甲建物は,Xから無償で借りたものであって,賃借しているものではありません。賃貸借契約を締結したのであれば,契約書を作成し,敷金を差し入れるのが通常ですが,私とXとの間では甲建物の使用についての契約書は作成されていませんし,私が敷金を差し入れたこともありません。Xが書証として提出した本件契約書の賃借人欄の氏名は,明らかにXの筆跡です。私の氏名の横の印影は,確かに私の印鑑によるものですが,これはいわゆる三文判で,Xが勝手に押したものだと思います。
 令和2年12月中旬だったと思いますが,私と妻が買物に行っている間,Xに私の自宅で子どもの面倒を見てもらっていたことがあります。恐らく,Xは,その際に,あらかじめ準備しておいた賃貸借契約書の賃借人欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。この印鑑は,居間の引き出しの中に保管していたのですが,Xは週に2日は孫に会いに私の自宅に来ていましたので,その在りかを知っていたはずです。
 確かに,私は,令和2年7月30日,Xに対し,5万円を支払っていますが,これは,甲建物の賃料として支払ったものではありません。その年の6月頃にXと私の家族で買物をした際,私が財布を忘れたため,急きょXから5万円を借りたことがあったのですが,その5万円を返済したのです。
 私が骨董品店を開業してからも,令和2年の年末までは,Xから甲建物の賃料の支払を求められたことはありませんでした。ところが令和3年に入り,私と妻が不仲となり別居したのと時期を同じくして,突然Xが賃料を支払うよう求めてきて困惑しています。私の骨董品店も,次第に馴染みの客が増えており,経営が苦しいなどということはありません。」

 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Qは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。その準備書面において,弁護士Qは,前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて,XとYが本件賃貸借契約を締結した事実が認められないことにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Qにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を,提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。なお,記載に際しては,本件契約書のY作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。

【メモ】

●自己評価:C

【答案例】

第1 設問1
1.小問(1)
賃貸借契約に基づく賃料支払請求権 1個

2.小問(2)
被告は、原告に対し、55万円を支払え。

3.小問(3)
(1)Xは、Yとの間で、令和2年7月1日、甲建物について、賃貸期間同年7月1日から令和5年6月30日、賃料月額10万円とする賃貸借契約を締結した。
(2)Xは、Yに対し、上記(1)の契約に基づき、甲建物を引き渡した。
(3)令和2年7月1日から同年12月31日の期間は経過した。
(4)上記(3)の期間における各月の月末を各々到来した。●確認:不要では?(3)があり。

4.小問(4)
(i)本件請求は、60万円の賃料から5万円を差し引いた55万円の支払いを求める一部請求である。そして、一部請求に対する弁済の抗弁に係る金額は、本来請求し得る債権額から控除される(外側説)。従って、既に控除されている5万円の弁済の主張は、55万円の請求に対する抗弁とはならない。●確認:主張自体失当だろう。なお、一般論として、「弁済」は、抗弁事由にはあたる(本問では違うが。)。だからこそ先行自白となる。しかし、本問では、違う。抗弁の定義を書いてあてはめ、というEasyはOut.

(ii)一部弁済の主張であり、承認による時効更新事由(民法152条1項)となる。

第2 設問2
1.Yの取り立て(民法423条の5前段)、及びAの弁済(同条後段)はいずれも自由。
2.それに対し、債権の仮差押えをすれば、いずれも禁止できる(民保法20条1項、50条1項)。

第3 設問3
1.小問(1)
(i)
①Bは、Xに対し、令和2年8月1日、弁済期を同年10月15日と定め、50万円を貸し付けた。
②XとBは、Yに対し、①の債務に代え、本件訴求債権を譲渡する合意をした。

(ii)債務者対抗要件(民法467条1項)は、対抗要件であり、効力発生要件ではないので、Yの側からBを債権者と認めて弁済することは制限されないため。

2.小問(2)
債権が存在せず。相殺適状にない。民法622条の2第2項後段(●確認:1項の話ではないはず。明渡しは求めていないので。その問題ではない。)

第4 設問4 ●検討:相手の主張する事実を、自らの主張のサポートとする手法が使えることが多いのではないか。事実の評価の問題として。
1.使用貸借である。
2.
(1)●二段の推定
(2)あ:週2日と頻繁に。身内で場所も知っていた。居間なので自由に出入り可能。留守があり、機会もあった。動機もある。
2.使用貸借である理由
・長年空き家でそもそも賃料なし。
・Xの手書き
・敷金差し入れしていない。
(1)7月分については、5万円は払わせたこととなるが、そのように細かい回収をするXがその後半年間猶予することは不自然。
(2)賃料を通常の15万から10万に負けるということは、3年間で180万円もの減額をしている。にも拘わらず5万は回収は不自然。
(3)敷金30万円は取っているが、その倍額近く60万円-5万円まで猶予することは不自然。
3.細部
・不仲になった時期と符合
・経営順調ゆえ、賃貸借なら払っている。
・5万円は別口。領収書もない。●認識:何を買ったのか?は大切。
よって、賃貸借は不自然であり、使用貸借
以上

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