(民事)法律実務基礎科目(R4)

【問題文】

 司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。

〔設問1〕
 弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。

【Xの相談内容】
「私は、建物のリフォームを仕事としています。私は、Yとは十年来の付き合いで、Yが経営する飲食店の常連客でもありました。私は、令和3年の年末頃、Yから、M市所在の建物(以下「本件建物」という。)を飲食店に改修するための外壁・内装等のリフォーム工事(以下「本件工事」という。)について相談を受け、令和4年2月8日、本件工事を報酬1000万円で請け負いました。
 令和4年5月28日、私は、本件工事を完成させ、本件建物をYに引き渡し、本件工事の報酬として、1000万円の支払を求めましたが、Yは、700万円しか支払わず、残金300万円を支払いませんでした。私は、本件工事の報酬の残金300万円と支払が遅れたことの損害金全てをYに支払ってほしいと思います。」

 弁護士Pは、令和4年8月1日、【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとした。

 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
(1)  弁護士Pが、本件訴訟において、Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
(2)  弁護士Pが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお、付随的申立てについては、考慮する必要はない。
(3)  弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)を記載しなさい。なお、いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとして、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
(4)  弁護士Pが、本件訴状において請求を理由づける事実として、上記(3)のとおり記載した理由を判例を踏まえて簡潔に説明しなさい。なお、訴訟物が複数ある場合は、訴訟物ごとに記載すること。

〔設問2〕
 以下、XがYとの間で、令和4年2月8日に締結した報酬を1000万円とする本件工事の請負契約を「本件契約」という。
 弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。

【Yの相談内容】
「(a)  Xは、令和4年5月28日、本件工事を完成させ、私は、同日、本件建物の引渡しを受け、Xに700万円を支払いました。しかし、私がXとの間で締結したのは、報酬を700万円とする本件工事の請負契約であり、本件契約ではありません。
 私は、本件建物で飲食店を営業したいと考え、令和3年の年末頃、Xに本件建物のリフォーム工事について相談をしました。Xが本件建物を見た上で、本件工事は700万円程度でできると述べたので、私は、令和4年2月8日、Xとの間で、報酬を700万円とする本件工事の請負契約を締結しました。したがって、私が本件工事の報酬としてXに支払うべき金額は、1000万円ではなく700万円であり、未払はありません。
 仮に、Xと私との間で、本件契約が締結されたというのであれば、Xは、令和4年5月28日、次のようなやり取りを経て、私に本件工事の報酬残金300万円の支払を免除しましたので、私はそれを主張したいと思います。
 私は、令和4年5月28日、本件建物の引渡しを受ける際、本件建物の外壁に亀裂があるのを発見しました。私がその場で、Xに対し、外壁の修補を求めたところ、Xは、この程度の亀裂は自然に発生するもので修補の必要はないと言い、本件工事の報酬1000万円を支払うよう求めてきました。私は、本件工事の報酬は700万円だと思っていましたので、それを強く言うと、Xは、そのようなことはないなどと言っていましたが、最終的には、『700万円でいい。残りの300万円の支払はしなくてよい。』と言いましたので、私は、700万円を支払って、本件建物の引渡しを受けました。
(b)  本件建物の外壁の亀裂は、その後、とんでもないことになりました。
 令和4年6月初旬、雨が降り続いた際、本件建物の外壁の亀裂が原因で雨漏りが生じました。私は、このままでは安心して本件建物で営業ができないと思い、同月10日、Xに対し、本件建物の外壁の亀裂から雨漏りが生じたことを伝え、外壁の修補を求めましたが、Xから断られましたので、損害賠償を請求する旨を伝えました。そして、私は、本件建物の外壁の補修工事を別の業者に依頼し、その報酬として350万円を支出しました。」

 弁護士Qは、【Yの相談内容】を前提に、Yの訴訟代理人として、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。

 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
(1)  弁護士Qは、【Yの相談内容】(a)を踏まえて、抗弁を主張することとした。その検討に当たり、本件訴訟において、抗弁として機能するためには、以下の(ア)及び(イ)の事実が必要であると考えた。
 (ア) 〔 〕
 (イ) Xは、Yに対し、令和4年5月28日、本件契約に基づく報酬債務のうち300万円の支払を免除するとの意思表示をした。
 (i) (ア)に入る具体的事実を記載しなさい。
 (ii) 弁護士Qが、(ア)の事実が必要であると考えた理由を簡潔に説明しなさい。

(2)  弁護士Qは、【Yの相談内容】(b)から、YはXに対し、契約不適合を理由とする債務不履行に基づく350万円の損害賠償債権を有すると考えた。弁護士Qがこの350万円の回収方法として、本件訴訟手続を利用して選択できる訴訟行為を判例を踏まえて挙げなさい。

〔設問3〕
 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状及び本件答弁書等は陳述された。弁護士Pは、その口頭弁論期日において、本件工事の報酬の見積金額が1000万円と記載された令和4年2月2日付けのX作成の見積書(以下「本件見積書①」という。)を書証として提出し、これが取り調べられたところ、弁護士Qは、本件見積書①の成立を認める旨を陳述した。
 これに対し、弁護士Qは、本件訴訟の第1回弁論準備手続期日において、本件工事の報酬の見積金額が700万円と記載された令和4年2月2日付けのX作成の見積書(以下「本件見積書②」という。)を書証として提出し、これが取り調べられたところ、弁護士Pは、本件見積書②の成立を認める旨を陳述した。
 本件訴訟の第2回弁論準備手続期日を経た後、第2回口頭弁論期日において、本人尋問が実施され、本件契約の締結に関し、Xは、次の【Xの供述内容】のとおり、Yは、次の【Yの供述内容】のとおり、それぞれ供述した(なお、それ以外の者の尋問は実施されていない。)。

【Xの供述内容】
「私は、令和3年の年末頃に、Yから本件建物を飲食店にリフォームをしてもらえないかと頼まれ、本件建物を見に行きました。Yは、リフォームの費用は銀行から融資を受けるつもりなので、できるだけ安く済ませたいと言っていました。私は、Yの要望のとおりのリフォームをするのであれば1000万円を下回る報酬額で請け負うのは難しいと話し、本件工事の報酬金額を1000万円と見積もった本件見積書①を作成して、令和4年2月2日、Yに交付しました。Yが同月8日、本件工事を報酬1000万円で発注すると言いましたので、私は、同日、本件工事を報酬1000万円で請け負いました。見積金額が700万円と記載された本件見積書②は、Yから、本件建物は賃借している物件なので、賃貸人に本件工事を承諾してもらわなければならないが、大掛かりなリフォームと見えないようにするため、外壁工事の項目を除いた見積書を作ってほしいと頼まれて作成したものです。実際、私は、本件工事として本件建物の外壁工事を実施しており、本件見積書②は実体と合っていません。私は、Yは本件見積書①を銀行に提出し、同年5月初旬に銀行から700万円の融資を受けたと聞いていますが、本件見積書②を賃貸人に見せたかどうかは聞いていません。私は、契約書を作成しておかなかったことを後悔していますが、私とYは十年来の仲でしたので、作らなくても大丈夫だと思っていました。
 以上のとおり、私は、Yとの間で、令和4年2月8日、本件契約を締結しました。」

【Yの供述内容】
「私は令和4年2月8日、Xに本件工事を発注しましたが、報酬は1000万円ではなく、700万円でした。Xが私に対し、1000万円を下回る報酬額で請け負うのは難しいと言ったことはなく、令和3年の年末頃に本件建物を見た際、700万円程度でできると言い、令和4年2月2日、本件工事の報酬金額を700万円と見積もった本件見積書②を私に交付しました。そこで、私は、同月8日、Xに対し、本件工事を報酬700万円で発注したいと伝え、Xとの間で、本件工事の請負契約を締結したのです。私から外壁工事の項目を除いた見積書を作ってほしいとは言っていません。確かに、本件見積書②には、本件工事としてXが施工した外壁工事に関する部分の記載がありませんが、私は、本件見積書②の交付を受けた当時、Xから、外壁工事分はサービスすると言われていました。本件見積書①は、私が運転資金として300万円を上乗せして銀行から融資を受けたいと考え、Xにお願いして、銀行提出用に作成してもらったものです。私は、本件見積書①を銀行に提出しましたが、結局、融資を受けられたのは700万円でした。本件見積書②は、本件工事の承諾を得る際、賃貸人に見せています。」

 以上を前提に、以下の問いに答えなさい。
 弁護士Pは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することを予定している。その準備書面において、弁護士Pは、前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、XとYが本件契約を締結した事実が認められることにつき、主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて、上記準備書面に記載すべき内容を、提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて、答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。なお、記載に際しては、冒頭に、XとYが本件契約を締結した事実を直接証明する証拠の有無について言及すること。

〔設問4〕
 仮に、弁護士Qにおいて、〔設問2〕(2)の本件訴訟手続を利用して選択できる訴訟行為を行わないまま、本件訴訟の口頭弁論は終結し、その後、Xの請求を全部認容する判決が言い渡され、同判決は確定したものとする(以下、この確定した判決を「本件確定判決」という。)。Xは、Yが支払わないので、本件確定判決を債務名義として、YのA銀行に対する預金債権を差押債権とする債権差押命令の申立てをしたところ、これに基づく差押命令が発令されて、同命令がA銀行及びYに送達された。
 弁護士Qは、Yの代理人として、〔設問2〕の【Yの相談内容】(b)を踏まえ、本件確定判決に係る請求権の存在又は内容について異議を主張して、本件確定判決による強制執行の不許を求めることができるか、結論を答えた上で、その理由を民事執行法の関係する条文に言及しつつ、判例を踏まえて簡潔に説明しなさい。

【メモ】

●自己評価:E
・一部請求について、「知っていること」と「できること」との違い。実践を。
・準備書面は、ノウハウ整理。

【答案例】

第1 設問1
1.小問(1)
・請負契約に基づく報酬支払請求権1個(●「代金」ではなく「報酬」。1個失念。)
履行遅滞に基づく損害賠償請求権1個(●もしかして「1個」の場合は不要?)

2.小問(2)
被告は、原告に対し、300万円及び令和4年5月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。(●注意:「28」日ではない。「以降」ではなく「から」で良い。●確認:「%」よりは「分」と?。●方針:「X」・「Y」等は使用しない。どちらでも良いようだが。)

3.小問(3)
①Xは、Yから、令和4年2月8日、本件工事を代金1000万円で請け負った。(●認識:「契約」を締結した等は、要件事実ではない。)
②Xは、令和4年5月28日、本件工事を完了した。(●注意:日付を!)
③Xは、Yに対し、同日、本件建物を引き渡した。(●確認:日付は具体的に書くべき?●認識:問題ない。)

④Xは、Yに対し、本件工事の報酬として、1000万円の支払を求めた。●確認:遅延損害金請求のための催告として(他は?)。ただ、633条2項から、引渡しがあれば、違法になるのでは?請求不要では。期限の定めのない債務ではないのでは?

4.小問(4)●適当
①632条:契約
②632条:完成
③633条本文:引渡し
・3%:民法419条1項・2項
・債務不履行は債務の存在が前提となるので、契約は履行が原則。よって、遅延について主張不要。●確認:上記小問(3)と矛盾?

第2 設問2 ●認識:民訴法も大切。
1.小問(1)(i)
Yは、Xに対し、令和4年5月28日、本件契約に基づく債務の履行として、700万円を支払った。

2.小問(1)(ii)
抗弁とは、請求原因と両立し、その法律効果を覆滅させる事実主張をいう。債務の一部免除についは、債権総額から控除されることから(外側説)、残額は弁済済みであることを主張しなければ、主張自体失当等となる。●理解:請求の趣旨は700万円だが、請求原因事実には1000万円と書いている。抗弁は請求原因事実に対するもの。●理解:700万円を支払うことは認めていることとなり、300万円が認容される。

3.小問(2)●理解:相殺の抗弁、反訴(民訴法142条):超過50万円のためにはベター。●理解:問題から、別訴は☓。
相殺(民法505条1項本文)。原則として同時履行(同533条本文。かっこ書きも。)。公平から。
しかし、履行に代わる損害賠償請求権(民法559条・564条・415条1項本文)(自働債権)と報酬債権(受働債権)との相殺は認められる(判例)。
報酬減額請求権と実質的に同一であり、簡易な決済をするのみで当事者の公平を害しないから。

第3 設問3●検討:客観的事実(外壁工事あり)・慣習(上乗せした見積書のメリットなく・不正協力リスクのみ)●検討:常識(300万円もまけない。まけるなら、0円。サービス等と記載する。)
●確認:処分文書・報告文書。「類型的信用文書」とは?
1.Xの証言が直接証拠。
2.賃貸人に見せる必要性なし。外観だけ見れば良い。一般的ではない。

第4 設問4
・請求異議の訴え(民執法35条1項)
・「口頭弁論終結の後」(同2項)
相殺は意思表示により効力を生じるので、口頭弁論終結前に相殺適状であっても問題ない(判例)。実質的敗訴は酷。
以上

  • X