(民事)法律実務基礎科目(R5)

【問題文】

[民 事]
司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「私は、中古車の収集を趣味としている個人です。令和4年8月上旬、友人Aが私の自宅に併
設されたガレージに遊びに来た際、私が中古で入手しカスタマイズした自動車(以下「本件車
両」という。)を見ていたく気に入り、是非とも本件車両を売却してほしいと言いました。Aが
余りに強く希望するため、私も根負けして、本件車両を売却することを了解しました。ただ、A
が即金での支払は難しく分割払になるというので、私は、そうであれば連帯保証人を付けてほし
いと伝えたところ、数日後、Aから、Aの父親Yに連帯保証人となることの内諾を得たとの連絡
がありました。
令和4年8月17日、私は、Aとの間で、本件車両を代金240万円で売却し、代金の支払に
ついては、同月から令和6年7月まで、毎月末日限り10万円ずつの分割払とし、Aが分割金の
支払を2回以上怠ったときは催告等要せず当然に期限の利益を喪失する旨を合意しました(以下
「本件売買契約」という。)。
また、私は、Yとの間で、令和4年8月17日、Yが、Aの私に対する上記売買代金の支払債
務につき、連帯して保証する旨の合意をしました(以下「本件保証契約」という。)。
これらの合意については、別紙の売買契約書(以下「本件契約書」という。)に私、A及びY
がそれぞれ署名押印する形で行いました。
そして、私は、Aに対し、令和4年8月17日、本件車両を引き渡しました。
しかし、Aは、令和4年8月及び同年9月の各月末に10万円ずつ合計20万円を支払ったの
みで、同年10月及び同年11月の各末日が経過したにもかかわらず、分割金の支払を怠り、現
在は行方不明となっています。
そこで、私は、連帯保証人のYに対し、Aに代わって残代金220万円の支払を求めたいと思
います。なお、残代金の元本さえ支払ってもらえればよく、利息・損害金の支払は求めませ
ん。」
弁護士Pは、令和5年4月5日、【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対
し、Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとした。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
⑴ 弁護士Pが、本件訴訟において、Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
載しなさい。
⑵ 弁護士Pが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨
(民事訴訟法第134条第2項第2号)を記載しなさい。なお、付随的申立てについては、考慮
する必要がない。
⑶ 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1
項。以下同じ。)を記載しなさい。なお、いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとし
て、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするも
の)は記載しないこと。
⑷ 【Xの相談内容】のうち下線部の事実について、請求を理由づける事実として本件訴状に記載
すべきか否かについて、①結論を答えた上で、②その理由を簡潔に説明しなさい。
⑸ 弁護士Pは、Xの権利の実現を確実なものとするため、本件訴訟を提起するに当たり、Yの財
産に対する仮差押命令の申立てを行うこととした。調査の結果、Yはα銀行に対する預金債権を
有するほか、自宅の土地建物(以下「自宅不動産」という。)を所有しているが、自宅不動産に
ついては2年前(令和3年)に抵当権(被担保債権はいわゆる住宅ローン債権で、当初債権額は
3000万円)が設定されていることが判明した。なお、α銀行の銀行取引約定書によれば、預
金債権に対する仮差押えは銀行借入れがあった場合にその期限の利益喪失事由とされている。
弁護士Pは、Yの財産のうち、α銀行の預金債権に対し仮差押命令の申立てを行うこととした
が、その申立てに当たり、Yの自宅不動産の時価を明らかにする必要があると考えた。その理由
を民事保全法の関係する条文に言及しつつ簡潔に説明せよ。
〔設問2〕
弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
「(a) 私は、Xから、息子のAが車両を購入した際の代金について、連帯保証人として支払
うよう請求を受けていますが、私が、Aの代金支払債務について連帯保証した事実はあ
りません。私は、Aから連帯保証人になってほしいと頼まれたものの、他にもAの借金
の保証をしていましたので、これ以上保証はできないと伝えて断っています。Xは、本
件契約書の連帯保証人欄に私の署名押印があると主張していますが、私は本件契約書に
署名押印などしていません。
(b) AがXから令和4年8月17日に代金240万円で本件車両を購入したこと、代金は
毎月末日限り10万円ずつ24回の分割払の約定だったこと、Aが同月及び同年9月の
各月末に10万円ずつ合計20万円を支払ったのみで、その後、支払をしていないこ
と、現在、Aが所在不明であることは、いずれも争いません。
(c) Aは、令和4年9月中旬頃、本件車両につき、いわゆる車検(道路運送車両法所定の
継続検査。以下、単に「車検」という。)のため、業者Bに依頼して検査を受けたとこ
ろ、保安基準に適合せず車検が通らなかったとこぼしていました。Aによると、Xか
ら、本件車両は保安基準に適合しており、車検は通ると説明されたことから、本件車両
の購入を決めたようですが、実際にはライト(前照灯)の改造部分が保安基準に適合し
なかったため、車検が通らなかったそうです。保安基準に適合せず、車検に通らない
と、公道を走行させることもできません。Aも、Xに対し、本件車両が保安基準に適合
することを前提に本件車両を購入する旨を伝えていたそうですし、保安基準に適合しな
い車両と知っていれば、本件車両を購入しなかったはずです。このように、本件売買契
約はそもそもAの錯誤に基づくものですので、仮に私がAの債務を連帯保証したのだと
しても、私としてはXの請求を拒めるのではないでしょうか。」
弁護士Qは、【Yの相談内容】を前提に、Yの訴訟代理人として、本件訴訟の答弁書(以下「本
件答弁書」という。)を作成した。その際、弁護士Qは、【Yの相談内容】(c)を踏まえて、抗弁
として、以下のとおり主張する必要があると考えた。
(あ) Aは、本件売買契約当時、〔 ① 〕にもかかわらず、〔 ② 〕と信じていた。
(い) 本件売買契約の際、〔 ②に同じ 〕ことを前提にAが本件車両を買い受けることが表
示されていた。
(う) Yは、Xに対し、〔 ③ 〕。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。なお、本件に民法第95条の適用があることは解答
の前提としてよい。
⑴ 上記①から③までに入る要件事実(主要事実。以下同じ。)を、それぞれ記載しなさい。
⑵ 弁護士Qが、上記(う)が必要であると考えた理由を、民法の関係する条文に言及しつつ、簡
潔に説明しなさい。
〔設問3〕
弁護士Pは、Aが本件車両の検査を依頼した業者Bに対し問合せを行い、次のような回答を得た。
【業者Bの回答結果】
「Aが業者Bに対し、本件車両の検査を依頼したのは令和4年8月28日であり、業者BがA
に対し、本件車両のライト(前照灯)の改造部分のため保安基準に適合しない旨を通知したのは
同年9月15日である。」
弁護士Pは、【業者Bの回答結果】を踏まえて、 における抗弁に対する再抗弁を主張〔設問2〕
することができるか検討したところ、本件訴訟において、以下のとおり主張する必要があると考えた。
(ア) Aは、遅くとも令和4年9月15日には、本件車両が保安基準に適合しないことを知った。
(イ) Aは、Xに対し、〔 ④ 〕。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
⑴ 上記④に入る要件事実を記載しなさい。
⑵ 上記各事実の主張が再抗弁として機能すると判断した理由を、実体法上の法律効果を踏まえて
説明しなさい。
〔設問4〕
本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日におい
て、弁護士Pは、本件保証契約の締結を裏付ける証拠として、別紙の売買契約書(本件契約書。な
お、斜体部分は全て手書きである。)を、「丙(連帯保証人)」作成部分の作成者をYとして提出
し、書証として取り調べられた。これに対し、弁護士Qは、同期日において、本件契約書のうちY
作成部分の成立を否認した。その後、2回の弁論準備手続期日が行われた後、第2回口頭弁論期日
において、XとYの各本人尋問が実施され、Xは【Xの供述内容】のとおり、Yは【Yの供述内
容】のとおり、それぞれ供述した(それ以外の者の尋問は実施されていない。)。なお、各供述の
うち下線部については該当する書証が提出されて取り調べられており、その成立に争いがない。
【Ⅹの供述内容】
「私は、令和4年8月上旬に学生時代の友人Aにせがまれて、私が収集しカスタマイズした中
古車(本件車両)をAに売却することになりました。代金額について240万円とすることが決
まりましたが、Aから、蓄えがないので、代金は分割払にしてほしいと言われました。私は、古
くからの友人の頼みでもあり、これを了承しましたが、代わりに、連帯保証人を付けてほしいと
頼みました。そうしたところ、同月10日頃、Aから、父親のYに連帯保証人になってもらうこ
とで内諾を得たとの説明を受けました。Aは、あらかじめYには契約書の連帯保証人欄に署名押
印してもらっておくというので、私は、インターネットで見つけたひな型を使って本件契約書の
文案を作成し、Aに交付しました。
令和4年8月17日、Aが私の自宅にやってきました。このとき、本件契約書の丙(連帯保証
人)の署名欄には既にY名義の署名押印があり、Aは、Yの印鑑登録証明書を持参していまし
た。私とAは、本件契約書の甲(売主)の署名欄と乙(買主)の署名欄にそれぞれ署名押印しま
した。
本件契約書のY名義の署名がYの自筆によるものかは不明ですが、Y名義の印影は、間違いな
くYの実印によるものです。
私は、その日(令和4年8月17日)の夜にY宅に電話をして、Yに、本件車両の売却につい
て、Aとの間で本件契約書の調印が終わり、Yとの間で本件保証契約が成立したことを報告しま
した。Yは、『Aからも聞いているので問題ない』と応じました。
なお、Yは、Aがアパートを借りる際の保証人となるため、実印を預託したと供述しますが、
Aの住民票によれば、AがYの自宅から住所を移転したのは令和4年12月15日のことで
す。」
【Yの供述内容】
「私は今年で72歳になります。令和4年8月当時、私の自宅に同居していた息子のAが、そ
の友人のXから本件車両を購入したことは事実のようです。しかし、本件契約書のうち私が連帯
保証人になっている部分は全く身に覚えがありません。
Aは昔から浪費癖があり、金銭消費貸借契約書のとおり、令和4年8月当時、私は、Aの貸金
業者に対する約200万円の借入れについて保証人になっていました。私は、Aから、友人の車
を分割払で買うので保証人になってほしいと言われましたが、年金振込通知書のとおり、当時、
月15万円の年金暮らしで生活に余裕がありませんでしたので、さすがにこれ以上は無理だと言
って断りました。私の日記の同月9日の欄にも、「Aから車購入の相談。保証はさすがに断
る。」と記載されています。
ちょうど同じ令和4年8月にAが就職し、私の自宅を出て一人暮らしをすることになり、アパ
ートの賃貸借契約を結ぶことになりましたが、賃貸借契約に保証人が必要とのことでしたので、
私は、保証人になることを承諾し、Aに私の実印を預け、印鑑登録証明書を渡したことがありま
した。実印は1週間くらいで返してもらいましたが、この時に預けた実印を悪用し、本件契約書
に私の実印を無断で押したのだと思います。なお、本件契約書の私名義の署名は、私の筆跡に似
てはいますが、私が記載したものではありません。
令和4年8月17日、知らない男性から電話があって、保証がどうとか言われましたので、私
は、Aがアパートを借りた際の不動産仲介業者だろうと思い、適当に相づちを打ってしまいまし
た。この電話の際に、相手から車の売買の件であるなどといった説明はありませんでした。」
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
⑴ 弁護士Qは、本件契約書のY作成部分の成立を否認するに当たり、次のように理由(民事訴訟
規則第145条)を述べた。以下の⑤及び⑥に入る陳述内容を記載しなさい。
「本件契約書のY名義の印影が〔 ⑤ 〕ことは認めるが、同印影が〔 ⑥ 〕ことは否認す
る。YがAに預託した実印を、Aが預託の趣旨に反して冒用したものである。」
⑵ 弁護士Pは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することを予定してい
る。その準備書面において、弁護士Pは、前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及
び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、本件保証契約が締
結された事実が認められることにつき、主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて、上
記準備書面に記載すべき内容を、提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を
踏まえて、答案用紙1ページ程度の分量で記載しなさい。なお、記載に際しては、本件契約書の
Y作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。

(別紙)
(注)斜体部分は全て手書きである。
売買契約書
1 売主甲( )は、買主乙(A)に対し、別紙目録(省略)記載の車両を代金24Ⅹ
0万円で売却する。
2 乙は、甲に対し、前項の代金240万円を、次のとおり分割して支払う。
令和4年8月から令和6年7月まで 毎月末日限り10万円ずつ(24回払)
3 連帯保証人丙(Y)は、甲に対し、乙の甲に対する第1項及び前項の代金支払債
務を連帯して保証する。
4 (以下略)
令和 年 月 日
4 8 17
甲(売主)
X X印
乙(買主)
A A印
丙(連帯保証人)
Y Y印

【メモ】

●自己評価:E
・準備書面オワタ。枠組み・要素は書いたが。文章ではない。箇条書き。
・時間管理を。民事は書くのに時間かからずも、考える時間が必要。特に準備書面。

【答案例】

第1 設問1
1.小問(1)
保証契約に基づく保証債務履行請求権 1個
2.小問(2)
Yは、Xに対し、220万円を支払え。
3.小問(3)
・Xは、Aに対し、令和4年8月17日、本件車両を240万円で売った
・Yは、当該売買に基づくAの債務を保証した。
・当該保証は書面による。
4.小問(4)
・すべき。
・「2回以上怠った」という事実がなければ、期限の利益(412条2項)を喪失せず。
5.小問(5)
・内容のみ記載(条文記載なし)。債権者にとり執行のタイミングが。と書いたが。●が、債務者保護だろう。

第2 設問2
1.小問(1)
①公道を走行させることができない。
②できる
③履行を拒む。
2.小問(2)
保証債務の付従性から。120条2項には含まれていない。

第3 設問3
1.小問(1)
通知しなかった。566条1項本文
2.小問(2)
不存在だが、契約に適合することが原則であり。例外なのでOK。

第4 設問4
1.小問(1)
⑤Yの実印によるものである。
⑥Yの意思により作出されたものである。

2.小問(2)
(1)二段の推定を記載
(2)下線部。その評価を記載。①200万なら今回も。②年金の範囲内。③日記は信用に値せず。④適当に相槌ありえず。保証経験者として。●息子の濫用可能性を書き否定すべきだった。
(3)結論を記載。

以上

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