行政法(R5)
【問題文】
[行政法]
A市では、浄化槽(便所と連結してし尿等を処理し、公共下水道以外に放流するための設備又は施設をいう。)の設置による便所の水洗化が進んだ昭和50年代に、それまで十数社存在していたし尿収集業者がB、Cの2社に集約され、それ以後、当該2社が浄化槽汚泥の収集運搬に従事してきた。一般に、浄化槽汚泥の発生量は浄化槽の設置世帯数に応じてほぼ一定しており、また、その収集運搬に支障が生じると、衛生状態が悪化し、住民の健康と生活環境に被害が生じるおそれがある。そのためA市は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第6条に規定する一般廃棄物処理計画に当たる計画(以下「旧計画」という。)の中で、「一般廃棄物の適正な処理(中略)を実施する者に関する基本的事項」(同条第2項第4号)として、「一般廃棄物(浄化槽汚泥)の収集運搬についてはB、Cの2社に一般廃棄物収集運搬業の許可を与えてこれを行わせる。」と記載するとともに、「大幅な変動がない限り、新たな許可は行わないものとする。」と記載していた。その結果、この2社体制の下で、A市の区域内で発生する浄化槽汚泥の量に対してお
よそ2倍の収集運搬能力が確保され、適切な収集運搬体制が維持されていた。A市では、公共下水道の普及が十分でない中、便所のくみ取り式から水洗式への改修が進んでいるため、浄化槽の設置世帯数は微増しているが、将来の人口及び総世帯数は減少が予想されているため、旧計画中の「発生量及び処理量の見込み」(同項第1号)においては、浄化槽汚泥について、今後は発生量及び処理量の減少が見込まれる旨記載されていた。BとCは、過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避することで、その適正な運営を継続的かつ安定的に確保するため、それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。
そうした中、浄化槽汚泥の処理を含む公共サービスへの競争原理の導入を主張して当選した新A市長は、浄化槽の設置件数の増加が予想されること、及び競争原理を導入する必要性を主張して、それまで旧計画に定められてきた上述のB、Cの2社体制と新たな許可をしない旨の記述を削除し、「一般廃棄物(浄化槽汚泥)収集運搬業にあっては、競争性を確保するため、浄化槽の設置件数の推移に応じて新規の許可を検討する。」との記載を追加する内容で、旧計画を改訂した(以下、旧計画を改訂したものを「新計画」という。)。さらに、旧計画の基礎とされた将来の人口及び総世帯数の減少予測は新計画においても維持されているにもかかわらず、新計画中の「発生量及び処理量の見込み」において、浄化槽の設置件数の増加に伴い、浄化槽汚泥について、発生量及び処理量の大幅な増加が見込まれる旨記載された。
令和2年4月1日付けで、新A市長は、Dの申請に基づき、法第7条第2項に基づく政令が一般廃棄物収集運搬業の許可の有効期間を2年と定めていることに従い、期限を令和4年3月31日とする一般廃棄物(浄化槽汚泥)収集運搬業の許可(以下「本件許可」という。)をした。Dの代表者はBの代表者の実弟であり、従来、一般廃棄物収集運搬業に従事した経験はなかった。Dの営業所所在地は、Bの営業所所在地と同一の場所になっており、D単独の社屋等は存在せず、Dの代表者はBの営業所内で執務を行っていた。さらに、BとDは業務提携契約を締結し、その中で、Bが雇用する人員が随時Dに出向すること、Bが保有している運搬車をDも使用し得ることが定められていた。
令和2年4月以降、Dは従来Cが担当していた区域においてCからの乗換客を獲得しつつあり、それによりCの売上げは徐々に減少している。そこで、Cは、同年9月30日、本件許可の取消訴訟(以下「本件取消訴訟」という。)を提起した。
なお、法及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」の抜粋を【資料】として掲げるので、適宜参照しなさい。
〔設問1〕
⑴ Cに本件取消訴訟における原告適格は認められるか、関係する法令の規定を挙げながら、検討しなさい。なお、解答に当たっては、市町村において既存の一般廃棄物収集運搬業者によって適正な収集及び運搬がされていることを踏まえて法第6条に規定する一般廃棄物処理計画が策定されている場合には、新規の一般廃棄物収集運搬業の許可申請を法第7条第5項第2号の要件を充足しないものとして不許可とすることが適法と解されていることを前提にしなさい。
⑵ 本件取消訴訟係属中に令和4年3月31日が経過し、同年4月1日付けで本件許可が更新された。A市は、同年3月31日の経過により本件許可は失効し、本件取消訴訟の訴えの利益は失われたと主張している。本件取消訴訟の訴えの利益は肯定されると主張したいCとしては、どのような主張をすることが考えられるか、関係する法令の規定を挙げながら、検討しなさい。なお、解答に当たっては、Cに原告適格が認められることを前提にしなさい。
〔設問2〕
A市は、本件取消訴訟において、本件許可は新計画に適合していること、法第6条に規定する一般廃棄物処理計画の策定及び内容の変更についてはA市長に裁量が認められており、新計画の内容はその裁量の範囲内であること、並びにDに事業遂行能力がある以上、自由な参入を認めざるを得ないことを主張している。これに対し、法第7条第5項第2号及び第3号の各要件に関して、Cは本件許可の違法事由としてどのような主張をすることが考えられるか、検討しなさい。なお、解答に当たっては、本件取消訴訟が適法であることを前提にしなさい。
【資料】
〇 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。
(一般廃棄物処理計画)
第6条 市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以下「一般廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。
2 一般廃棄物処理計画には、環境省令で定めるところにより、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関し、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み
二 一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項
三 (略)
四 一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項
五 (略)
3・4 (略)
(市町村の処理等)
第6条の2 市町村は、一般廃棄物処理計画に従つて、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分(中略)しなければならない。
2~7 (略)
(一般廃棄物処理業)
第7条 一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(中略)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。(以下略)
2 前項の許可は、1年を下らない政令で定める期間ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う。
3 前項の更新の申請があつた場合において、同項の期間(以下この項及び次項において「許可の有効期間」という。)の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、従前の許可は、許可の有効期間の満了後もその処分がされるまでの間は、なおその効力を有する。
4 前項の場合において、許可の更新がされたときは、その許可の有効期間は、従前の許可の有効期間の満了の日の翌日から起算するものとする。
5 市町村長は、第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること。
二 その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
三 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
四 (略)
6~16 (略)
〇 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
(一般廃棄物収集運搬業の許可の基準)
第2条の2 法第7条第5項第3号(中略)の規定による環境省令で定める基準は、次のとおりとする。
一 施設に係る基準
イ 一般廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車、運搬船、運搬容器その他の運搬施設を有すること。
ロ (略)
二 申請者の能力に係る基準
イ 一般廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。
ロ 一般廃棄物の収集又は運搬を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。
【メモ】
●評価:B
・一般論は各々それなりに書いた。
・あてはめも一応は。
【答案例】
第1 設問1
1.設問1(1)
(1)原告適格(1項ではない。注意)
(2)
【仕組み】●キーワード:需給調整(自由競争ではない。)●平成26年判例
・本来市町村(6条の2第1項)
・市町村処理困難(7条5項1号)、計画適合(同2号)
・計画:発生・処理見込み(6条2項1号)、実施する者(同4号)
あ:売り上げ減少、7条1項。「法」では☓。しかし計画上は、法7条5項2号→〇⇒D。そこで、計画を見る。浄化水槽減少。2倍維持。●旧計画では新たな許可☓
2.設問1(2)
(1)訴えの利益(括弧書きの問題ではなく。一般的な)●東京12ch
(2)
・2年(7条2項・政令)
・更新処分まで有効(7条3項)
⇒更新制
あ:2社体制
第2 設問2
(1)裁量 ●小田急
(2)
・7条5項2号:計画の策定・変更についての裁量:新計画は違法(事実誤認・考慮不尽・他事考慮等):維持されているのに間違った見込み。許可が違法とまで論じる。結論。
・同3号:設備・能力 ●事実上の区割りも? ●規則の条文まで明示。
以上