商法(R4)
【問題文】
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、農産物加工品の通信販売を業とする取締役会設置会社
であり、監査役設置会社である。甲社は種類株式発行会社ではなく、甲社の定款には、譲渡による
株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定めがある。甲社の発行済株式の総数は5000
株であり、そのうち、Aが2000株を、Bが400株を、Cが1000株を、Dが1600株を
それぞれ保有している。
甲社の取締役はA、B及びEの3名であり、Aが代表取締役である。また、監査役にはFが就任
している。Dは、かつて甲社の取締役であったが、数年前に甲社の経営方針をめぐってAと対立し、
その際、CがAの側についたことから、甲社の取締役に再任されず、その後も取締役に選任される
ことはなかった。AとDの対立は現在まで続いている。
2.甲社は、かねてより商品を保管する倉庫を建設するための用地を探していたところ、Cが保有し
ている土地(以下「本件土地」という。)が倉庫建設に適していることが判明した。AはCとの間
で、本件土地の売買交渉を進め、もう少しで契約が成立するというところまでこぎつけた。
ところが、不動産業者から倉庫建設に適した別の土地の情報がもたらされた。その情報を受け、
甲社の取締役会において審議したところ、本件土地に倉庫を建設するより不動産業者から提案され
た土地に倉庫を建設した方が円滑に商品を出荷することが可能となることから、本件土地の買取り
を見送るとの結論に達した。
3.上記のような取締役会での決定を受け、AがCのもとに赴き、本件土地を買い取ることができな
くなったことを説明したところ、Cは納得しなかった。AはCの説得を続けたが、Cは聞き入れず、
ついに本件土地の買取りができないなら今後の対応についてDに相談すると言い出した。CとDが
協調して行動することを恐れたAは、本件土地の買取りを再検討する旨をCに告げてCのもとを去
った。
4.甲社の取締役会では、Aからの報告を受け、Cから本件土地を買い取ることとし、さらに、準備
されていた本件土地に関する資料をもとに買取価格を検討し、2億円で本件土地を買い取ることを
A、B及びEの賛成によって決定した(以下「本件取締役会決議」という。)。本件土地に関する
資料によれば、本件土地の適正価格は2億円であった。
5.Aが、すぐさまCに甲社の本件取締役会決議の内容を知らせてCと再度交渉したところ、Cは本
件土地を2億円で売却することを承諾し、本件土地の売買契約が成立した(以下「本件取引」とい
う。)。
6.この頃、甲社の完全子会社である乙株式会社(以下「乙社」という。)の取締役が任期中に死亡
したため、乙社の取締役に欠員が生じた。乙社の代表取締役を兼任するAは、Fを乙社の取締役に
することとし、乙社においてFを取締役に選任する手続を採るとともに、Fに対して乙社の取締役
に就任するよう要請した。それを受け、FはAに乙社の取締役に就任すると返答した。
7.本件取引のことを聞きつけたDは、本件土地より倉庫に適した土地があったにもかかわらず本件
取引をしたことは、Cが甲社の株主であるために特別に優遇したものであり、不適切であると考え、
友人の弁護士に対し、A、B及びE並びにC(以下「Aら」という。)が、本件取引に関して甲社
に対して何らかの責任を負わないか検討してほしいと依頼した。
8.弁護士のアドバイスを受けたDは、Aらに対して責任追及等の訴えを提起することとし、Fに対
して、甲社としてAらに対して訴訟を提起するよう請求した(以下「本件提訴請求」という。)。
本件提訴請求から60日以内に甲社がAらに対して訴訟を提起しなかったことから、Dは、甲社の
ためにAらに対する責任追及等の訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。- 5 — 5 –
〔設問1〕
本件訴えにおいて、Dの立場において考えられる主張及びその当否について、論じなさい。
〔設問2〕
本件訴えの被告であるAらは、本件提訴請求は適法とはいえず、本件訴えは違法であると主張し
ている。本件訴えは適法か、Aらの主張を踏まえて論じなさい。
【メモ】
●自己評価:C
・論証が甘いか。
【答案例】
第1 設問1
1.(1)Cと併せて持株比率50%超となるDに相談すると言われ、本件土地の購入に至った点、株主に対する利益供与とならないか、
●「財産上の利益」(120条1項)が問題となる。
(2)あ:なる。
2.(1)「別の土地」ではなく、本件土地を購入した点、損害賠償請求(423条1項)。
●経営判断原則
(2)あ:ならない。本件土地が倉庫施設に適している点は確か。別途120条1項を問うている以上。
第2 設問2
1.(1)監査役設置会社たる甲において、訴訟における監査役の会社代表(386条1項1号)となるため、847条3項の請求は監査役に対してする必要がある。しかし、Fは、甲の完全子会社たる乙の取締役への就任承諾をしている。必要な手続きも踏んでいる。
●「監査役」
(2)あ:自己監査禁止の趣旨に照らし、不可。
2.(1)もっとも、登記は未了と考えられる。そこで、Aらは、Dが「第三者」(908条1項前段)に該当し、対抗不可では?
●「第三者」
(2)あ:AとDは対立している。聞きつけたのは、「本件取引のこと」であり、急遽決まった乙社人事ではない。よって、「第三者」該当。
対抗不可。
以上