刑法(R4)

【問題文】

以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例1】
1 甲(35歳、女性)は、A市内のアパートにおいて、長男X(13歳)及び長女Y(6歳)と3人で暮らしていた。
2 某月1日、甲は、Yと共に、Bが店長を務める大型スーパーマーケットC店に入り、果物コーナーを歩いていた際、陳列棚に置かれていた1房3000円の高級ブドウを手に取ってYに見せながら、「あんた、これ好きでしょ。」などと話したが、高額であったことから、Yの眼前でそのまま陳列棚に戻した。その後、甲は、何も買わずに店を出たが、Yに上記ブドウを万引きさせようと考え、C店の前において、Yに対し、「さっきのブドウを持ってきて。ママはここで待っているから、1人で行ってきて。お金を払わずにこっそりとね。」と言った。それを聞いたYは、ちゅうちょしたが、甲から「いいから早く行きなさい。」と強い口調で言われたために怖くなり、甲の指示に従うことを決め、「分かった。」
と言って、甲から渡された買物袋を持って1人でC店に入っていった。Yは、約10分間掛けて店内を探したが、果物コーナーの場所が分からず、そのまま何もとらずに店を出た。甲は、上記ブドウの入手を諦め、Yと共に帰宅した。
3 同月5日、甲は、自宅において、Xに対し、「今晩、ステーキ食べたいね。C店においしそうなステーキ用の牛肉があったから、とってきてよ。」と言った。甲は、Xが「万引きなんて嫌だよ。」などと言ってこれを断ったため、「あのスーパーは監視が甘いから見付からないよ。見付かっても、あんたは足が速いから大丈夫。」などと言って説得したところ、Xは、渋々これに応じることとし、「分かった。」と言った。甲は、「一番高い3000円くらいのやつを2パックとってきて。午後3時頃に警備員が休憩に入るらしいから、その頃が狙い目だよ。」などと言い、商品を隠し入れるためのエコバッグをXに手渡した。Xは、同日午後3時頃、上記エコバッグを持ってC店に入り、精肉コーナーにおいて、1パック3000円のステーキ用牛肉を見付け、どうせなら多い方がいいだろうと考えて5パックを手に取り、誰にも見られていないことを確認した上で同エコバッグに入れた。Xは、そのまま店を出ようと考えて出入口付近に差し掛かったところ、同所にあった雑誌コーナーにXの好きなアイドルの写真集(販売価格3000円)を見付けてにわかにこれが欲しくなり、同写真集1冊を手に取ったまま、いずれも精算することなく店外に持ち出した。Xは、帰宅し、上記写真集を自分の部屋に置いた後、牛肉5パックが入った上記エコバッグを甲に渡した。甲は、「こんなにとってきてどうすんのよ。」などと言いつつこれを受け取り、同日以降、X及びYと共にこれらの牛肉を全て食べた。

〔設問1〕
【事例1】における甲の罪責について、論じなさい(建造物侵入罪及び特別法違反の点は除く。)。

【事例2】(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)
4 同月10日、甲は、自転車に乗って1人で、Dが店長を務めるホームセンターE店に行った際、陳列されていた液晶テレビ(50センチメートル×40センチメートル×15センチメートルの箱に入ったもの)を、自宅で使う目的で万引きしようと考え、E店内で、同液晶テレビ1箱を手に取って自己のトートバッグに入れた。甲は、上記箱を上記トートバッグ内に収めて店外へ持ち出すつもりでいたが、箱が大きすぎてその上部が10センチメートルほど同トートバッグからはみ出した状態になった。甲は、その状態のまま出入口方向へ歩き出そうとしたが、その一部始終を警備員F(35歳、女性)に目撃されていた。Fは、甲が液晶テレビを精算せずに店外へ持ち出そうとしていると考え、約20メートル離れた場所から甲の方へ歩いて向かったところ、周囲を見回していた甲も、Fがこちらを見ながら向かってきていることに気付いて万引きがばれたと思い、上記箱を陳列棚に戻した。そして、甲は、その場から走って逃げ出し、E店を出てから約3分後、E店から約400メートル離れた公園にたどり着き、同所でE店から追ってくる人がいないかどうかをうかがっていた。甲は、約10分間、上記公園にとどまっていたが、誰も追ってこなかったことから、E店に隣接する駐輪場にとめたままにしていた自己の自転車を取りに戻ろうと考え、それから約5分後、同駐輪場に戻ってきて、周囲の様子をうかがいつつ同自転車に近づこうとした。Fは、戻ってきた甲に気付き、上記駐輪場に飛び出し、甲を捕まえようと思って、「この万引き犯。逃げるんじゃない。」などと言いながら、両手を左右に広げて甲の前に立ち塞がった。そのため、甲は、逮捕を免れようと考え、両手でFの胸部を1回押したところ、Fが体勢を崩して尻餅を付いた。そこで、甲は、その隙に上記自転車に乗ってその場から逃走した。
〔設問2〕
【事例2】における甲の罪責に関し、事後強盗既遂罪(刑法第238条)の成立を否定するためにはどのような主張があり得るか。考えられるものを3つ挙げ、その3つの主張の論拠を、それぞれ具体的な事実を明示して、説明しなさい。

【メモ】

●自己評価:C(実際F)
・構成が甘い。
・後半については、理論をもう少し書くべきだったか?ただし、あてはめ重視。
・「実行の着手の判断基準に関する基本的理解を示して」が必要だった。
・間接正犯→共謀共同正犯(3要件を挙げて)→教唆犯を検討すべき。
・共謀の射程→錯誤とすべき。
・設問1も、基本を示す、ことが大切だったはず。
・設問2は、平易ゆえ、考慮要素まで軽く論述すれば良い。「平易なときほど丁寧に。」
・「臨機応変」それ自体は大したことはないが、判例の理解を示す、という意義があった。Keywordの重要性。

【答案例】

第1 設問1
1.Xに対する指示
(1)甲は、Xに対し、本問事実2・3の支持をするも、C店に行ってすらいない。そこで、実行行為性が問題となる。
●間接正犯
あ:一方的に支配・利用している。
(2)もっとも、場所が判らず
●実行の着手時期(被利用者標準説から)
あ:着手なし。未遂罪不成立。

2.Yに対する指示
(1)Xは、「嫌」と言いつつも、渋々ながら応じ、刑事未成年13歳(41条)であることを考慮しても、是非弁別能力はある。
よって、共謀共同正犯が問題となる(60条、235条)。
●共謀共同正犯
あ:該当が、「2パック」という指示しかしておらず、「どうするの」と言っているが、この点、犯行時の状況・臨機応変な対応を要することから、著しく不合理な数ではない限り、共謀の射程に含まれる。本問でも、5パックも含まれる。なお、事後に全部食べたことは無関係。
(2)他方、本問写真集については、xの個人的な趣味に基づくものであり、また前述の通り是非弁別能力のある者の行為として、共謀の射程には含まれない。
●教唆になって法定的符合説か?

(3)以上より、甲には、①Xに対する指示について窃盗未遂罪(234条、235条)、②Yとの間ではステーキ5パックにつき窃盗共同正犯(60条、235条)が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
刑事未成年(41条)は影響しない。

第2 設問2
1.はみ出ている。戻した。
(1)
・窃取とは
・事後強盗罪の既遂・未遂の時期(窃盗の)
(2)あ:C店の占有を自己の支配下に移しておらず。
(3)既遂ではない。

2.400メートル、10分。誰も来ず。
(1)
・窃盗の機会(考慮要素:時間的場所的接着性、追及可能性・取戻し可能性のある状況だったか。
(2)あ:事後強盗罪が想定する窃盗の機会による暴行ではなく、事後強盗罪の予定している暴行ではない。
(3)事後強盗罪(の既遂)ではない。

3.胸を一回押したのみ。
(1)
・反抗抑圧
(2)あ:相手方の反抗抑圧に足りる暴行ではない。
(3)事後強盗罪(の既遂)ではない。

以上

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