行政法(H30)
【問題文】
XはY県において浄水器の販売業を営む株式会社であるところ,Y県に対して「Xが消費者に対して浄水器の購入の勧誘を執拗に繰り返している。」との苦情が多数寄せられた。Y県による実態調査の結果,Xの従業員の一部が,購入を断っている消費者に対して,(ア)「水道水に含まれる化学物質は健康に有害ですよ。」,(イ)「今月のノルマが達成できないと会社を首になるんです。人助けだと思って買ってください。」と繰り返し述べて浄水器の購入を勧誘していたことが判明した。
そこでY県の知事(以下「知事」という。)は,Xに対してY県消費生活条例(以下「条例」という。)第48条に基づき勧告を行うこととし,条例第49条に基づきXに意見陳述の機会を与えた。Xは,この意見陳述において,①Xの従業員がした勧誘は不適正なものではなかったこと,②仮にそれが不適正なものに当たるとしても,そのような勧誘をしたのは従業員の一部にすぎないこと,③今後は適正な勧誘をするよう従業員に対する指導教育をしたことの3点を主張した。
しかし知事は,Xのこれらの主張を受け入れず,Xに対し,条例第25条第4号に違反して不適正な取引行為を行ったことを理由として,条例第48条に基づく勧告(以下「本件勧告」という。)をした。本件勧告の内容は,「Xは浄水器の販売に際し,条例第25条第4号の定める不適正な取引行為をしないこと」であった。
本件勧告は対外的に周知されることはなかったものの,Xに対して多額の融資をしていた金融機関Aは,Xの勧誘についてY県に多数の苦情が寄せられていることを知り,Xに対し,Xが法令違反を理由に何らかの行政上の措置を受けて信用を失墜すれば,融資を停止せざるを得ない旨を通告した。
Xは,融資が停止されると経営に深刻な影響が及ぶことになるため,Y県に対し,本件勧告の取消しを求めて取消訴訟を提起したが,さらに,条例第50条に基づく公表(以下「本件公表」という。)がされることも予想されたことから,本件公表の差止めを求めて差止訴訟を提起した。
以上を前提として,以下の設問に答えなさい。
なお,条例の抜粋を【資料】として掲げるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
Xは,本件勧告及び本件公表が抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たることについて,どのような主張をすべきか。本件勧告及び本件公表のそれぞれについて,想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい。
〔設問2〕
Xは,本件勧告の取消訴訟において,本件勧告が違法であることについてどのような主張をすべきか。想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい(本件勧告の取消訴訟が適法に係属していること,また,条例が適法なものであることを前提とすること)。
【資料】
○ Y県消費生活条例
(不適正な取引行為の禁止)
第25条 事業者は,事業者が消費者との間で行う取引(中略)に関して,次のいずれかに該当する不適正な取引行為をしてはならない。
一~三 (略)
四 消費者を威迫して困惑させる方法で,消費者に迷惑を覚えさせるような方法で,又は消費者を心理的に不安な状態若しくは正常な判断ができない状態に陥らせる方法で,契約の締結を勧誘し,又は契約を締結させること。
五~九 (略)
(指導及び勧告)
第48条 知事は,事業者が第25条の規定に違反した場合において,消費者の利益が害されるおそれがあると認めるときは,当該事業者に対し,当該違反の是正をするよう指導し,又は勧告することができる。
(意見陳述の機会の付与)
第49条 知事は,前条の規定による勧告をしようとするときは,当該勧告に係る事業者に対し,当該事案について意見を述べ,証拠を提示する機会を与えなければならない。
(公表)
第50条 知事は,事業者が第48条の規定による勧告に従わないときは,その旨を公表するものとする。
(注)Y県消費生活条例においては,資料として掲げた条文のほかに,事業者が第48条の規定による勧告に従わなかった場合や第50条の規定による公表がされた後も不適正な取引行為を継続した場合に,当該事業者に罰則等の制裁を科する規定は存在しない。
【メモ】
●検討:設問2の要件裁量については、裁量はない、という考え方がある。
●仕組み:意見陳述(49条)⇒勧告(48条)⇒公表(50条)(その他、単なる指導(48条)で終わる場合もあり。)本問では、指導で足りる、との効果裁量違反の主張がありえる。
●公表は「できる」規定ではなく、「する」規定。処分性が認められ易い。
●病院開設中止勧告事件の場合、通常、開設できなくなる、という話。本問は、通常、ではない。事案を異にする。●私見:処分性の話なので、一般的性質(通常どうなのか?)の問題なので。
●本問において、要件裁量は認められない。効果裁量は認められる。
●問題文末尾:受験生が「罰則頼み」(答案が粗いもの)にならないよう、除外したと考えられる。
【答案例】
第1.設問1
●「処分」(行訴法3条2項)とは。
1.本件勧告の処分性
(1)公権力性〇:条例48条・50条
(2)法効果性(公表を受け得る地位)●検討:公表書いてから勧告か。
イ.反論
①行政指導(行手法2条6号)であり事実行為
②周知性がない。
ロ.主張
①公表を受けうる地位に立たされる(法的効果)。条例50条
②条例49条に基づく手続保障
③勧告段階での実効的な権利救済の必要性
(3)処分性あり。
2.本件公表の処分性
(1)公権力性〇
(2)法効果性(信用棄損等)
イ.反論
情報提供のための事実行為に過ぎない。
ロ.主張
①好評のもたらす信用棄損(法的効果)●銀行うんぬんではない一般論として。処分性の話なので。
②公表の制裁的機能(他に規定がないので制裁になる。)●補足:通常と逆の論理
③差止訴訟を認めることが実効的な権利救済の観点から必要。
(3)処分性あり。
第2 設問2
1.手続的側面
違法なし。
2.実体的側面
●行政裁量
(1)3行為(条例25条4号)(要件裁量)
イ.反論:裁量が広い。執拗且つ悪質。
ロ.としても、詐欺等ではない。●検討
(2)「消費者の利益が害されるおそれ」(条例48条)(要件裁量)
イ.おそれあり・執拗●検討
ロ.なし(なぜなら、①一部の従業員、②再発防止策。よって、再発はない。その点を重視しべき(重み付け)。)
(3)勧告を行うことが出来るか(効果裁量)「できる」・複数手段あり。
イ.できる。●検討
ロ.できない(なぜなら、違反行為の態様が悪質ではない。その後の対応が適切。受ける不利益が大きい。比例原則違反。)
以上