(民事)法律実務基礎科目(H23)

【問題文】

〔設問1〕
 別紙【Xの相談内容】は,弁護士PがXから受けた相談の内容の一部を記載したものである。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Pは,Xの依頼により,Xの訴訟代理人として,AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求権を訴訟物として, Yに対して100万円の支払を請求する訴え(以下「本件訴え」という。)を提起しようと考えている(なお,利息及び遅延損害金については請求しないものとする。以下の設問でも同じである 。)。弁護士Pが,別紙【Xの相談内容】を前提に,本件訴えの訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要十分な最小限のものを主張する場合, 次の各事実の主張が必要であり, かつ, これで足りるか。結論とともに理由を説明しなさい。
 ① 平成16年10月1日,Yは,平成17年9月30日に返済することを約して,Aから100万円の交付を受けたとの事実
 ② 平成22年4月1日,Aは,Xに対して,①の貸金債権を代金80万円で売ったとの事実
 ③ 平成17年9月30日は到来したとの事実

〔設問2〕
 弁護士Pは,訴状に本件の請求を理由づける事実を適切に記載した上で,本件訴えを平成23年2月15日に提起した(以下,この事件を「本件」という 。)。数日後,裁判所から訴状の副本等の送達を受けたYが,弁護士Qに相談したところ,弁護士Qは,Yの訴訟代理人として本件を受任することとなった。別紙【Yの相談内容】は,弁護士QがYから受けた相談の内容の一部を記載したものである。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書において抗弁として消滅時効の主張をしようと考えている。弁護士Qとして,答弁書において必要十分な最小限の抗弁事実を主張するに当たり,消滅時効の理解に関する下記の甲説に基づく場合と乙説に基づく場合とで,主張すべき事実に違いがあるか。結論とともに理由を説明しなさい。なお,本件の貸金返還請求権について商法第522条が適用されることは解答の前提としてよい。
 甲説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じるものではなく,時効が援用されたときに初めて確定的に生じる。
 乙説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じる。時効の援用は 「裁判所は,当事者の主張しない事実を裁判の資料として採用してはならない」という民事訴訟の一般原則に従い,時効の完成に係る事実を訴訟において主張する行為にすぎない。

〔設問3〕
 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書に消滅時効の抗弁事実を適切に記載して裁判所に提出した。
 本件については,平成23年3月14日に第1回口頭弁論期日が開かれた。同期日には,弁護士Pと弁護士Qが出頭し,弁護士Pは訴状のとおり陳述し,弁護士Qは答弁書のとおり陳述した。その上で,両弁護士は次のとおり陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士P:Y側は消滅時効を主張しています。しかし,私がXから聴取しているところでは,Aは,平成22年4月1日にXに本件の貸金債権を譲渡し,同日にYにその事実を電話で通知した,そこで,Xは,5年の時効期間が経過する前の同年5月14日にYの店に行き,Yに対して本件の借金を返済するよう求めたが,そのときにYが確たる返事をしなかったことから,しばらく様子を見ていた,その後,Xが,同年12月15日に再びYの店に行ったところ,Yの方から返済を半年間待ってほしいと懇請された,とのことでした。このような経過を経て,私がXから依頼を受けて,平成23年2月15日に本件訴えを提起したものです。ですから,Y側の消滅時効の主張は通らないと思います。
 弁護士Q:私も Yから A及びXとの間のやりとりについて詳しく確認してきましたが Yは, 平成22年中に,AともXとも話をしたことはないとのことです。
 訴状に記載された本件の請求を理由づける事実及び答弁書に記載された消滅時効の抗弁事実がいずれも認められるとした場合,裁判所は,本件の訴訟の結論を得るために,弁護士Pによる上記陳述のうちの次の各事実を立証対象として,証拠調べをする必要があるか。結論とともにその理由を説明しなさい。なお,各事実を間接事実として立証対象とすることは考慮しなくてよい。
 ① Xは,5年の時効期間が経過する前の平成22年5月14日に,Yに対して,本件の借金を返済するよう求めたとの事実
 ② 平成22年12月15日に,YがXに対して,本件の借金の返済を半年間待ってほしいと懇請したとの事実

〔設問4〕
本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは, 「平成22年4月1日,Aは,Xに対して,①の貸金債権を80万円で売った 」との事実(設問1における②の事実)を立証するための証拠として,A名義の署名押印のある別紙【資料】の領収証を,作成者はAであるとして提出した。これに対して弁護士Qは,この領収証につき,誰が作成したものか分からないし,A名義の署名押印もAがしたものかどうか分からないと陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
 上記弁護士Qの陳述の後,裁判官Jは,更に弁護士Qに対し,別紙【資料】の領収証にあるA名義の印影がAの印章によって顕出されたものであるか否かを尋ねた。裁判官Jがこのような質問をした理由を説明しなさい。

〔設問5〕
 本件の審理の過程において,弁護士P及びQは,裁判官Jからの和解の打診を受けて,1か月後の次回期日に和解案を提示することになった。和解条件についてあらかじめ被告側の感触を探りたいと考えた弁護士Pは,弁護士Qに電話をかけたが,弁護士Qは海外出張のため2週間不在とのことであった。この場合において,早期の紛争解決を望む弁護士Pが,被告であるYに電話をかけて和解の交渉をすることに弁護士倫理上の問題はあるか。結論と理由を示しなさい。なお,弁護士職務基本規程を資料として掲載してあるので,適宜参照しなさい。

(別 紙)
【Xの相談内容】
 私は甲商店街で文房具店を営んでおり,隣町の乙商店街で同じく文房具店を営んでいるAとは旧知の仲です。平成16年10月1日,Aと同じ乙商店街で布団店を営んでいるYは,資金繰りが苦しくなったことから,いとこのAから,平成17年9月30日に返済する約束で,100万円の交付を受けて借り入れました。ところが,Yは,返済期限が経過しても営業状況が改善せず,返済もしませんでした Aもお人好しで 特に催促をすることもなく Yの営業が持ち直すのを待っていたのですが, 平成21年頃,今度はAの方が,資金繰りに窮することになってしまいました。そこで,Aは,Yに対して, 上記貸金の返済を求めましたが, Yは返済をしようとしなかったそうです。そのため, 私は, Aから窮状の相談を受けて,平成22年4月1日,Yに対する上記貸金債権を代金80万円で買い取ることとし,同日,Aに代金として80万円を支払い,その場でAはYに対して電話で債権譲渡の通知をしました。
 このような次第ですので,Yにはきちんと100万円を支払ってもらいたいと思います。

【Yの相談内容】
 私は,乙商店街で布団店を営んでいますが,営業が苦しくなったことから,平成16年10月1日に,いとこのAから,返済期限を平成17年9月30日として100万円を借りました。私は,この金を使って店の立て直しを図りましたが,うまくいかず,返済期限を過ぎても返済しないままになってしまいました。Aからは,平成21年頃に一度だけ,この借金を返済してほしいと言われたことがありますが,返す金もなかったことから,ついあの金はもらったものだなどと言ってしまいました。その後は,気まずかったので,Aとは会っていませんし,電話で話したこともありません。
 そうしたところ,平成23年2月15日に,XがP弁護士を訴訟代理人として本件訴えを起こしてきました。そこで, 私は, 同月21日に, 訴訟関係書類に記載されていたXの連絡先に電話をかけて, Xに対し,XがAから本件の貸金債権を譲り受けたという話は聞いていないし,そもそも今回の借金は,Aから借りた時から既に6年以上が経過しており,返済期限からでも5年以上が経過していて,時効にかかっているから支払うつもりはないと伝えました。
 このような次第ですので,私にはXに100万円を支払う義務はないと思います。

【資料】
領 収 証
X様
本日,Yに対する百萬円の貸金債権の譲渡代金として,金八十萬円を領収致しました。
平成22年4月1日    A A印

【メモ】

●スタート:訴訟物は何か?本問では明示されている。「AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」
●知識を大切に(曖昧は通用せず)。
●準備書面は量より論理。小見出しを付す。骨組みが重要’(つらつら書かない)。
●時的因子は必須。
●「規程」は三段論法を軽くは。
●要件事実の書き方:
①条文上・・・
②しかし、他の条文・論理(主張責任・証明責任等)
③よって、・・・が必要十分。
④本問において、・・・
●貸借型理論☓
●商法522条は削除された。
●設問4において、「補助事実についての自白」も問題となる?

【答案例】

第1 設問1
1.譲受債権の発生原因事実、及び譲受債権の取得原因事実が必要●注意:要件事実論においては、まず大枠を示すことが重要。
(1)譲受債権の発生原因事実
(ア)金銭授受と(イ)返還合意(587条)。目的物を借主に利用させる目的であるため、返還請求するためには、(ウ)返還時期の合意(相当期間の経過)、及び(エ)その到来が必要。
あ:①が(ア)(イ)(ウ)に相当。③が(エ)に相当。必要十分。
(2)債権の取得原因事実
(準物権行為の独自性は否定されるため、債権譲渡の発生原因事実のみ主張すれば十分。)
あ:②で必要十分。
第2 設問2
違いがある。
・甲:不確定効果説(145条)。平成23年2月21日の時効援用の意思表示(145条)の主張必要。
・乙:確定効果説。不要(意思表示自体は必要だが、それは攻撃防御方法として。or弁論の全趣旨から認定できれば十分。145条は注意規定。弁論主義からは当然。)
第3 設問3 ●注意:不確定効果説の中での争い(停止条件説v.s.解除条件説)については問題とされていない。
貸金返還請求権の消滅時効の起算日は、弁済期たる平成17年9月30日の翌日同年10月1日、それから5年後の平成22年9月30日の経過により債権は時効消滅する。
1.①について
不要(「催告」(150条1項)だが、その日である平成22年5月14日から6か月が経過する同年11月14日が経過するまでは時効完成しない。しかし、訴え提起した平成23年2月15日は、それを経過している。147条1号所定の時効更新のための行為もなし。よって、主張自体失当。証拠調べの必要性なし。)●補足:弁護士は、時効期限間近の案件では、まず催告するかを検討し、適宜行う。
2.②について
必要。債務の承認にあたり、時効完成を知らなかったとしても、信義則(民法1条2項)上、時効援用の主張が制限される(判例)。その結果、更新の効果が生じ、再抗弁となる。証拠調べをする必要がある。
●放棄の主張は過剰主張。
第4 設問4
原則:228条1項
1.●二段の推定(民訴法228条4項)●一種の法定証拠法則に過ぎない(証明責任の転換まではない)が。争う側の反証活動が必要となる。
2.あ:2段目を否定している。1段目の推定が働くA名下の印影とAの印章(●確認:による印影?)の一致について、争うのか否かがポイントだが、それ自体についての陳述なし。
よって、・・・求釈明(民訴法149条1項)として、・・・。
第5 設問5
承諾なければ原則不可。
(1)「正当な理由」(規程52条):
趣旨は法律上の資格ある者を通じた交渉を確保することによる相手方本人の利益保護。
そこで、必要性・緊急性・不利益のおそれが(少)ない場合。
(2)あ:1か月。2週間。理由に緊急性なし。(和解案の内容次第で不利益あり。)
よって、違反。問題がある。
以上

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