(民事)法律実務基礎科目(R1)
【問題文】
司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「Aは,知人のBに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,無利息で損害金を年10%として,200万円を貸し渡しました。AとBは,平成29年9月1日,上記の内容があらかじめ記載されている「金銭借用証書」との題の書面に,それぞれ署名・押印をしたとのことです(以下,この書面を「本件借用証書」という。)。加えて,本件借用証書には,「Yが,BのAからの上記の借入れにつき,Aに対し,Bと連帯して保証する。」旨の文言が記載されていました。AがBから聞いたところによれば,Yは,あらかじめ,本件借用証書の「連帯保証人」欄に署名・押印をして,Bに渡しており,平成29年9月1日に上記の借入れにつき,Bと連帯して保証したとのことです。なお,YはBのいとこであると聞いています。
ところが,弁済期である平成30年6月15日を過ぎても,BもYも,Aに何ら支払をしませんでした。
私(X)は,Aから懇願されて,平成31年1月9日,この200万円の貸金債権とこれに関する遅延損害金債権を,代金200万円で,Aから買い受けました。Aは,Bに対し,私にこれらの債権を売ったことを記載した内容証明郵便(平成31年1月11日付け)を送り,同郵便は同月15日にBに届いたとのことです。
ところが,その後も,BもYも,一向に支払をせず,Yは行方不明になってしまいました。私は,まずは自分で,Bに対する訴訟を提起し,既に勝訴判決を得ましたが,全く回収することができていません。今般,Yの住所が分かりましたので,Yに対しても訴訟を提起して,貸金の元金だけでなく,その返済が遅れたことについての損害金全てにつき,Yから回収したいと考えています。」
弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討することとした。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
(2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮する必要はない。
(3) 弁護士Pは,本件訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,以下の各事実を主張した。
(あ) Aは,Bに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,損害金の割合を年10%として,200万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。
(い) Yは,Aとの間で,平成29年9月1日,〔①〕。
(う) (い)の〔②〕は,〔③〕による。
(え) 平成30年6月15日は経過した。
(お) 平成31年1月〔④〕。
上記①から④までに入る具体的事実を,それぞれ記載しなさい。
(4) 仮に,Xが,本件訴訟において,その請求を全部認容する判決を得て,その判決は確定したが,Yは任意に支払わず,かつ,Yは甲土地を所有しているが,それ以外のめぼしい財産はないとする。Xの代理人である弁護士Pは,この確定判決を用いてYから回収するために,どのような手続を経て,どのような申立てをすべきか,それぞれ簡潔に記載しなさい。
〔設問2〕
弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
「(a) 私(Y)はBのいとこに当たります。
確かに,Bからは,Bが,Xの主張する時期に,Aから200万円を借りたことはあると聞いています。また,Bは,Xの主張するような内容証明郵便を受け取ったと言っていました。しかし,私が,Bの債務を保証したことは決してありません。私は,本件借用証書の「連帯保証人」欄に氏名を書いていませんし,誰かに指示して書かせたこともありません。同欄に押されている印は,私が持っている実印とよく似ていますが,私が押したり,また,誰かに指示して押させたりしたこともありません。
(b) Bによれば,この200万円の借入れの際,AとBは,AのBに対する債権をAは他の者には譲渡しないと約束し,Xも,債権譲受時には,そのような約束があったことを知っていたとのことです。
(c) また,仮に,(b)のような約束がなかったとしても,Bは,既に全ての責任を果たしているはずです。
Bは,乙絵画を所有していたのですが,平成31年3月1日,乙絵画をXの自宅に持っていって,Xに譲り渡したとのことです。Bは,乙絵画をとても気に入っていたところ,何の理由もなくこれを手放すことはあり得ないので,この200万円の借入れとその損害金の支払に代えて,乙絵画を譲り渡したに違いありません。」
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) ①弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)を踏まえて,Yの訴訟代理人として,答弁書(以下「本件答弁書」という。)において,どのような抗弁を記載するか,記載しなさい(当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。)。②それが抗弁となる理由を説明しなさい。
(2) 弁護士Qは,【Yの相談内容】(c)を踏まえて,本件答弁書において,以下のとおり,記載した。
(ア) Bは,Xとの間で,平成31年3月1日,本件貸付の貸金元金及びこれに対する同日までの遅延損害金の弁済に代えて,乙絵画の所有権を移転するとの合意をした。
(イ) (ア)の当時,〔 〕。
上記〔 〕に入る事実を記載しなさい。
(3) ①弁護士Qは,本件答弁書において,【Yの相談内容】(c)に関する抗弁を主張するために,(2)の(ア)及び(イ)に加えて,Bが,Xに対し,本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張することが必要か不要
か,記載しなさい。②その理由を簡潔に説明しなさい。
〔設問3〕
Yが,下記のように述べているとする。①弁護士Qは,本件答弁書において,その言い分を抗弁として主張すべきか否か,その結論を記載しなさい。②その結論を導いた理由を,その言い分が抗弁を構成するかどうかに言及しながら,説明しなさい。
記
Aが本件の貸金債権や損害金をXに譲渡したのだとしても,私は,譲渡を承諾していませんし,Aからそのような通知を受けたことはありません。確かに,Bからは,「Bは,Aから,AはXに対して債権を売ったなどと記載された内容証明郵便を受け取った。」旨を聞いていますが,私に対する通知がない以上,Xが債権者であると認めることはできません。
〔設問4〕
第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日において,弁護士Pは,本件借用証書を書証として提出し,それが取り調べられ,弁護士Qは,本件借用証書のY作成部分につき,成立の真正を否認し,「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,Bが盗用した。」と主張した。
その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,Y名義の保証につき,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,Xは,下記【Xの供述内容】のとおり,それぞれ供述した(なお,それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
【Yの供述内容】
「私とBは,1歳違いのいとこです。私とBは,幼少時から近所に住んでおり,家族のように仲良くしていました。Bは,よく私の自宅(今も私はその家に住んでいます。)に遊びに来ていました。
Bは,大学進学と同時に,他の県に引っ越し,大学卒業後も,その県で就職したので,行き来は少なくなりましたが,気が合うので,近所に来た際には会うなどしていました。
平成29年8月中旬だったと思いますが,Bが急に私の自宅に泊まりに来て,2日間,滞在していきました。今から思えば,その際に,本件借用証書をあらかじめ準備して,連帯保証人欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。私が小さい頃から,私の自宅では,印鑑を含む大事なものを寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていましたし,私の印鑑はフルネームのものなので,Bは,私の印鑑を容易に見つけられたと思います。この印鑑は,印鑑登録をしている実印です。Bが滞在した2日間,私が買物などで出かけて,B一人になったことがあったので,その際にBが私の印鑑を探し出したのだと思います。
私は,出版関係の会社に正社員として勤務しています。会社の業績は余り芳しくなく,最近はボーナスの額も減ってしまいました。私には,さしたる貯蓄はなく,保証をするはずもありません。
私は,平成29年当時,Bから,保証の件につき相談を受けたことすらなく,また,Aから,保証人となることでよいかなどの連絡を受けたこともありませんでした。
なお,本件訴訟が提起されて少し経った頃から,Bと連絡が取れなくなってしまい,今に至っています。」
【Xの供述内容】
「YとBがいとこ同士であるとは聞いています。YとBとの付き合いの程度などは,詳しくは知りません。
Bが,平成29年8月中旬頃,Yの自宅に泊まりに来て,2日間滞在したかは分かりませんが,仮に,滞在したとしても,そんなに簡単に印鑑を見つけ出せるとは思いません。
なお,Aに確認しましたら,Aは,Yの保証意思を確認するため,平成29年8月下旬,Yの自宅に確認のための電話をしたところ,Y本人とは話をすることができませんでしたが,電話に出たYの母親に保証の件について説明したら,『Yからそのような話を聞いている。』と言われたとのことです。」
以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
弁護士Pは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。その準備書面において,弁護士Pは,前記の提出された書証並びに前記【Yの供述内容】及び【Xの供述内容】と同内容のY及びXの本人尋問における供述に基づいて,Yが保証契約を締結した事実が認められることにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を,提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。なお,記載に際しては,本件借用証書のY作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。
【メモ】
●改正の影響:債権譲渡(制限特約の物権的効力が否定され、譲渡自体は原則として有効。)・代物弁済(要物契約ではなくなった。)
●代物弁済の要件事実(482条):①合意、②所有、③対抗要件具備。これは債権の消滅原因として。●所有権取得原因としては、③は不要。
●二段の推定:(1)1段目は事実上の推定、(2)2段目は法定証拠法則●確認:法律上の、ではないことは勿論。
●認識:準備書面は、枠組みが大切。事実認定はどちらでもありえ、党派的主張として、実体法(判例)を踏まえた法的構成ができるか否かがポイント。
【答案例】
第1 設問1
1.小問(1)
A・Y間の保証契約に基づく保証債務履行請求権
2.小問(2)
被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成30年6月16日から支払済みまで年10%の割合による金員を支払え。
3.小問(3)
(1)①(あ)の本件貸付債務を保証することを約した。
(2)②意思表示
(3)③書面
(4)④9日、Aは、Xに対し、(あ)の本件貸付債権、及びその遅延損害金債権(●検討:それに対応する債務の)を200万円で売った。
●理解:11日か15日かも検討させる趣旨だった模様。
●認識:債務者対抗要件は抗弁。
4.小問(4)
(●甲土地の所在地を管轄する地方裁判所(民執法44条1項)に対し、不動産競売の申立て(2条)をする。)
債務名義(民執法22条1号・29条)⇒執行文付与(同26条1項)⇒甲土地の差押え(同45条1項)⇒●強制執行(同25条本文)・不動産(甲土地)の強制競売(同43条1項)の申立て
第2 設問2
1.小問(1)
(1)①譲渡制限特約の抗弁(民法466条3項・457条2項)
(2)②抗弁となる理由
抗弁とは、請求原因事実と両立し、その法的効果を覆滅する事実主張をいう。
債権譲渡自由(民法466条1項本文)⇒譲渡制限特約(466条2項)の物権的効力は否定。⇒(過誤払い防止のための)悪意・重過失の第三者への対抗可(466条3項)●検討:X悪意、とあてはめる?
よって、(●必ず)請求原因事実と両立し、その法的効果を阻止(●障害?)する抗弁にはあたる。●保証債務の付従性(457条2項)に基づき・・・。
2.小問(2)
Bは、乙絵画を所有していた。
3.小問(3)
(1)①必要
(2)②理由
代物弁済(482条)が、(●検討:「基づく所有権移転ではなく」)「弁済と同一の効力」を有するためには、合意((ア))による成立後に「給付をした」ことまで必要であるため。(イ)の所有の事実に加え、対抗要件具備まで必要と解されている(判例)。よって、引渡し(民法178条)まで必要。
第3 設問3
1.すべきではない。
2.467条1項に基づく通知の趣旨は、債務者の保護にある。そして、保証人は、主たる債務者への問い合わせ等により、通知を知るべき立場にある(付従性)。よって、通知は債務者にすれば足りる。●検討:2項ではないか?●検討:あてはめまでする?通知あった点。●検討:457条1項は?
従って、主張自体失当である。
第4 設問4 ●認識:補助事実についての自白自体についても、軽く触れるべき。 ●確認:民事訴訟規則145条 ●検討:母証言については、責任(●確認)を問われ得るAの虚偽の可能性も?
1.本件借用証書(●理解:最重要証拠)は、保証の意思表示がなされた処分文書(●且つ直接証拠)である。そこで、その成立の申請が証明されれば、その内容も真正なものであると認められる。
(1)●二段の推定(民訴法228条4項) ●理解:二段の推定のどこを否認しているか、を書く。●理解:特段の事情、までキッチリ書く。有無認定する。
(2)あ(特段の事情の検討):…と主張するが、以下の理由から定かではない。
・泊まった事実自体不明(●認識:逆に泊まったかと)。
・高校生が印鑑の在処など意識しないことが多いのが経験則。等
2.また、母親の供述。息子に不利な事実。
3.さらに、1歳違いのいとこ且つ幼少期から仲良しのような親族間では、裕福でなくても保証をすることはままあるのが経験則。等
3.以上より、(●事実上の推定がされているため、相手の反証が真偽不明であるというレベルで足りる。)上記推定を覆すに足りず、本件借用証書の成立の真正(形式的証拠力)は認められ、Yが保証契約を締結した事実が認められる。
以上