刑法(H26)

【問題文】

以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(28歳,男性,身長178センチメートル,体重82キログラム)は,V(68歳,男性,身長160センチメートル,体重53キログラム)が密輸入された仏像を密かに所有していることを知り,Vから,売買を装いつつ,代金を支払わずにこれを入手しようと考えた。具体的には,甲は,代金を支払う前に鑑定が必要であると言ってVから仏像の引渡しを受け,これを別の者に託して持ち去らせ,その後,自身は隙を見て逃走して代金の支払を免れようと計画した。
 甲は,偽名を使って自分の身元が明らかにならないようにして,Vとの間で代金や仏像の受渡しの日時・場所を決めるための交渉をし,その結果,仏像の代金は2000万円と決まり,某日,ホテルの一室で受渡しを行うこととなった。甲は,仏像の持ち去り役として後輩の乙を誘ったが,乙には,「ホテルで人から仏像を預かることになっているが,自分にはほかに用事があるから,仏像をホテルから持ち帰ってしばらく自宅に保管しておいてくれ。」とのみ伝えて上記計画は伝えず,乙も,上記計画を知らないまま,甲の依頼に応じることとした。
2 受渡し当日,Vは,一人で受渡し場所であるホテルの一室に行き,一方,甲も,乙を連れて同ホテルに向かい,乙を室外に待たせ,甲一人でVの待つ室内に入った。甲は,Vに対し,「金は持ってきたが,近くの喫茶店で鑑定人が待っているので,まず仏像を鑑定させてくれ。本物と確認できたら鑑定人から連絡が入るので,ここにある金を渡す。」と言い,2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示して仏像の引渡しを求めた。Vは,代金が準備されているのであれば,先に仏像を引き渡しても代金を受け取り損ねることはないだろうと考え,仏像を甲に引き渡した。甲は,待機していた乙を室内に招き入れ,「これを頼む。」と言って,仏像を手渡したところ,乙は,準備していた風呂敷で仏像を包み,甲からの指示どおり,これを持ってそのままホテルを出て,タクシーに乗って自宅に帰った。乙がタクシーで立ち去った後,甲は,代金を支払わないまま同室から逃走しようとしたが,Vは,その意図を見破り,同室出入口ドア前に立ちはだかって,甲の逃走を阻んだ。
3 Vは,甲が逃げないように,護身用に持ち歩いていたナイフ(刃体の長さ約15センチメートル)の刃先を甲の首元に突き付け,さらに,甲に命じてアタッシュケースを開けさせたが,中に現金はほとんど入っていなかった。Vは,甲から仏像を取り返し,又は代金を支払わせようとして,その首元にナイフを突き付けたまま,「仏像を返すか,すぐに金を準備して払え。言うことを聞かないと痛い目に合うぞ。」と言った。また,Vは,甲の身元を確認しようと考え,「お前の免許証か何かを見せろ。」と言った。
4 甲は,このままではナイフで刺される危険があり,また,Vに自動車運転免許証を見られると,身元が知られて仏像の返還や代金の支払を免れることができなくなると考えた。そこで,甲は,Vからナイフを奪い取ってVを殺害して,自分の身を守るとともに,仏像の返還や代金の支払を免れることを意図し,隙を狙ってVからナイフを奪い取り,ナイフを取り返そうとして甲につかみ掛かってきたVの腹部を,殺意をもって,ナイフで1回突き刺し,Vに重傷を負わせた。甲は,すぐに逃走したが,部屋から逃げていく甲の姿を見て不審に思ったホテルの従業員が,Vが血を流して倒れているのに気付いて119番通報をした。Vは,直ちに病院に搬送され,一命を取り留めた。
5 甲は,身を隠すため,その日のうちに国外に逃亡した。乙は,持ち帰った仏像を自宅に保管したまま,甲からの指示を待った。その後,乙は,甲から電話で,上記一連の事情を全て打ち明けられ,引き続き仏像の保管を依頼された。乙は,先輩である甲からの依頼であるのでやむを得ないと思い,そのまま仏像の保管を続けた。しかし,乙は,その電話から2週間後,金に困っていたことから,甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し,その代金を自己の用途に費消した。

【メモ】

●乙を利用している点、間接正犯は論じなくて良いだろう。一部であるし、郵便職員等と同様。
●処分行為・移転時期の書き方は再検討。
●不法原因について(イメージ):(1)給付完了(民法708条により問題なし)、(2)預託物(法禁物の話に近い)
(なお、金銭については、不法の有無とは関係なく、そもそも所有権者となることから問題となる。)
●詐欺ではなく、窃盗と評価した場合、事後強盗罪が問題となる。
●Vの行為は、①権利行使と恐喝の話(社会的相当性なし)、或いは②現行犯逮捕(痛い目に合う、から非該当)、③自救行為(法益侵害終了済み)等の話になり、適法になりえるが、違法と認定(各括弧内の理由)が素直。
●乙がタクシーで去る前なら、1項強盗になりえる。占有を確保していない、ので。

【答案例】

第1 甲の罪責
1.仏像の引渡を受けた行為
(1)「欺い」た:あ〇
(2)「交付させた」:あ〇
よって、詐欺罪(246条1項)成立。

2.Vを突き刺した行為
(1)「暴行」あるも処分行為に向けられたものか、その判断基準が問題となる。
イ.●(処分行為の要否)
ロ.あ〇
(2)もっとも、故意がある。そこで、
イ.●
ロ.あ:〇
(3)移転したか?
イ.●(移転時期)●上述している点を活かして簡単に。
ロ.あ:肯定(国外等から)
(4)生存はしていることから、未遂。
(5)正当防衛か?
あ:(各要件について悩みを見せつつ)36条2項〇
3.詐欺罪(246条1項)、強盗殺人未遂罪の過剰防衛(243条、240条、36条2項)が成立し、実質的には同一法益に対する罪として、前者は後者に吸収され包括一罪となる。●異なる構成要件に跨る「『混合的』包括一罪」。

第2 乙の罪責
1.仏像を自宅に保管した行為
後に知情しているが、その時点から権利者の追求を困難にする危険が増すことから、継続犯たる盗品等保管罪(256条2項)成立。
2.甲に無断で売却しているが、そもそも甲は強盗犯人であり所有権者でないが、その委託は保護に値するか、不法原因委託物についても横領が成立するか。●検討:所有権者でも返還請求ができないが(不法原因寄託物)とも。
(1)●
(2)あ
3.盗品等保管罪(256条2項)、及び横領罪(252条1項)が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
以上

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