(民事)法律実務基礎科目(H26)
【問題文】
(〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,8:16:4:14:8)
司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「私の父Yは,その妻である私の母が平成14年に亡くなって以来,Yが所有していた甲土地上の古い建物(以下「旧建物」といいます。)に1人で居住していました。平成15年初め頃,Yが,生活に不自由を来しているので同居してほしいと頼んできたため,私と私の妻子は,甲土地に引っ越してYと同居することにしました。Yは,これを喜び,旧建物を取り壊した上で,甲土地を私に無償で譲ってくれました。そこで,私は,甲土地上に新たに建物(以下「新建物」といいます。)を建築し,Yと同居を始めました。ちなみにYから甲土地の贈与を受けたのは,私が新建物の建築工事を始めた平成15年12月1日のことで,その日,私はYから甲土地の引渡しも受けました。
ところが,新建物の完成後に同居してみると,Yは私や妻に対しささいなことで怒ることが多く,とりわけ,私が退職した平成25年春には,Yがひどい暴言を吐くようになり,ついには遠方にいる弟Aの所に勝手に出て行ってしまいました。
平成25年10月頃,Aから電話があり,甲土地はAに相続させるとYが言っているとの話を聞かされました。さすがにびっくりするとともに,とても腹が立ちました。親子なので書類は作っていませんが,Yは,甲土地が既に私のものであることをよく分かっているはずです。平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っているのも私です。もちろん母がいるときのようには生活できなかったかもしれませんが,私も妻もYを十分に支えてきました。
甲土地は,Yの名義のままになっていますので,この機会に,私は,Yに対し,所有権の移転登記を求めたいと考えています。」
弁護士Pは,【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,昭和58年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)があることが明らかとなった。弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を訴訟物として,所有権移転登記を求める訴えを提起することにした。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pが作成する訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項)を記載しなさい。
(2) 弁護士Pは,その訴状において,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」との事実を主張したが,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)は,この事実のみで足りるか。結論とその理由を述べなさい。
〔設問2〕
上記訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談した。贈与の事実はないとの事情をYから聴取した弁護士Qは,Yの訴訟代理人として,Xの請求を棄却する,贈与の事実は否認する旨記載した答弁書を提出した。
平成26年2月28日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは訴状を陳述し,弁護士Qは答弁書を陳述した。また,同期日において,弁護士Pは,次回期日までに,時効取得に基づいて所有権移転登記を求めるという内容の訴えの追加的変更を申し立てる予定であると述べた。
弁護士Pは,第1回口頭弁論期日後にXから更に事実関係を確認し,訴えの追加的変更につきXの了解を得て,訴えの変更申立書を作成し,請求原因として次の各事実を記載した。
① Xは,平成15年12月1日,甲土地を占有していた。
② 〔ア〕
③ 無過失の評価根拠事実
平成15年11月1日,Yは,Xに対し,旧建物において,「明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。」と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付
した。〔以下省略〕
④ Xは,Yに対し,本申立書をもって,甲土地の時効取得を援用する。
⑤ 〔イ〕
⑥ よって,Xは,Yに対し,所有権に基づき,甲土地について,上記時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 上記〔ア〕及び〔イ〕に入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。
(2) 上記①から⑤までの各事実について,請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり,かつ,これで足りると考えられる理由を,実体法の定める要件や当該要件についての主張・立証責任の所在に留意しつつ説明しなさい。
(3) 上記③無過失の評価根拠事実(甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失はなかったとの評価を根拠付ける事実)に該当するとして,「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っている。」を主張することは適切か。結論とその理由を述べなさい。
〔設問3〕
上記訴えの変更申立書の副本を受け取った弁護士Qは,Yに事実関係の確認をした。Yの相談内容は次のとおりである。
【Yの相談内容】
「私は,長男Xと次男Aの独立後しばらくたった昭和58年12月1日,甲土地及び旧建物を前所有者であるBから代金3000万円で購入して所有権移転登記を取得し,妻と生活していました。
その後,妻が亡くなってしまい,私も生活に不自由を来すようになりましたので,Xに同居してくれるよう頼みました。Xは,甲土地であれば通勤等が便利だと言って喜んで賛成してくれました。私とXは,旧建物は私の方で取り壊すこと,甲土地をXに無償で貸すこと,Xの方で二世帯が住める住宅を建てることを決めました。
しかし,いざ新建物で同居してみると,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,Aに頼んでAの所で生活をさせてもらうことにしました。
このような次第ですので,私が甲土地上の旧建物を取り壊して甲土地をXに引き渡したこと,Xに甲土地を引き渡したのが新建物の建築工事が始まった平成15年12月1日であり,それ以来Xが甲土地を占有していること,Xが新建物を所有していることは事実ですが,私はXに対し甲土地を無償で貸したのであって,贈与したのではありません。平成15年12月1日に私とXが会って新築工事の話をしましたが,その際に甲土地を贈与するという話は一切出ていませんし,書類も作っていません。私には所有権の移転登記をすべき義務はないと思います。」
弁護士Qは,【Yの相談内容】を踏まえて,どのような抗弁を主張することになると考えられるか。いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で,当該抗弁の内容を端的に記載しなさい(なお,無過失の評価障害事実については記載する必要はない。)。
〔設問4〕
第1回弁論準備手続期日において,弁護士Pは訴えの変更申立書を陳述し,弁護士Qは前記抗弁等を記載した準備書面を陳述した。その後,弁論準備手続が終結し,第2回口頭弁論期日において,弁論準備手続の結果の陳述を経て,XとYの本人尋問が行われた。本人尋問におけるXとYの供述内容の概略は,以下のとおりであった。
【Xの供述内容】
「私は,平成15年11月1日,旧建物に行き,Yと今後の相談をしました。その際,Yは,私に対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。』と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付してくれました。私は,Yと相談して,Yの要望に沿った二世帯住宅を建築することにし,Yが住みやすいような間取りにしました。新建物は,仮にYが亡くなった後も,私や私の妻子が末永く住めるよう私が依頼して鉄筋コンクリート造の建物としました。
平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Yと甲土地で会いました。Yは,『今日からこの土地はお前の土地だ。ただでやる。同居が楽しみだな。』と言ってくれ,私も『ありがとう。』と答えました。
私はその日に土地の引渡しを受け,工事を開始し,新建物を建築しました。その後,私は,甲土地の登記済証(権利証)を保管し,平成16年以降,甲土地の固定資産税等の税金を支払い,Yが勝手に出て行った平成25年春までは,その生活の面倒も見てきました。
新建物の建築費用は3000万円で,私の預貯金から出しました。移転登記については,いずれすればよいと思ってそのままにし,贈与税の申告もしていませんでした。なお,親子のことですから,贈与の書面は作っていませんが,Yが事実と異なることを言っているのは,Aと同居を始めたからに違いありません。」
【Yの供述内容】
「私は,平成15年11月1日,旧建物で,Xと今後の相談をしましたが,その際,私は,Xに対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前に無償で貸す。いい建物を頼むぞ。』と言ったのであって,『譲渡する』とは言っていません。Xには,生活の面倒を見てもらい,甲土地の固定資産税等の支払いをしてもらい,正直,私が死んだら,甲土地はXに相続させようと考えていたのは事実ですが,生前に贈与するつもりはありませんでしたし,贈与の書類も作っていません。なお,甲土地の登記済証(権利証)を交付しましたが,これは旧建物を取り壊す際に,Xに保管を依頼したものです。
平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Xと甲土地で会いましたが,私が言ったのは,『今日からこの土地はお前に貸してやる。お金はいらない。』ということです。その日からXが新建物の工事を始め,私の意向を踏まえた二世帯住宅が建ち,私たちは同居を始めました。
しかし,いざ新建物で同居してみると,Xらは私を老人扱いしてささいなことも制約しようとしましたので,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,別居せざるを得なくなったのです。Xには,誰のおかげでここまで来れたのか,もう一度よく考えてほしいと思います。」
本人尋問終了後に,弁護士Qは,次回の第3回口頭弁論期日までに,当事者双方の尋問結果に基づいて準備書面を提出する予定であると陳述した。弁護士Qは,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」とのXの主張に関し,法廷におけるXとYの供述内容を踏まえて,Xに有利な事実への反論をし,Yに有利な事実を力説して,Yの主張の正当性を明らかにしたいと考えている。
この点について,弁護士Qが作成すべき準備書面の概略を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。
〔設問5〕
弁護士Qは,Yから本件事件を受任するに当たり,Yに対し,事件の見通し,処理方法,弁護士報酬及び費用について一通り説明した上で,委任契約を交わした。その際,Yから「私も高齢で,難しい法律の話はよく分からない。息子のAに全て任せているから,今後の細かい打合せ等については,Aとやってくれ。」と言われ,弁護士Qは,日頃Aと懇意にしていたこともあったため,その後の訴訟の打合せ等のやりとりはAとの間で行っていた。
第3回口頭弁論期日において裁判所から和解勧告があり,XY間において,YがXに対し甲土地の所有権移転登記手続を行うのと引換えにXがYに対し1500万円を支払うとの内容の和解が成立したが,弁護士Qは,その際の意思確認もAに行った。また,弁護士Qは,和解成立後の登記手続等についても,Aから所有権移転登記手続書類を預かり,その交付と引換えにXから1500万円の支払を受けた。さらに,弁護士Qは,受領した1500万円から本件事件の成功報酬を差し引いて,残額については,Aの指示により,A名義の銀行口座に送金して返金した。
弁護士Qの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して答えなさい。
【メモ】
●訴訟物:「贈与契約に基づく所有権移転登記請求権」
●訴訟物(追加):所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権。
●理解:(追加)分の請求の趣旨は、「被告は、原告に対し、甲土地について、平成15年12月1日取得時効を原因とする所有権移転登記手続きをせよ。」●参照:民法144条
●贈与への反論は真偽不明にすれば良い(使用貸借でも〇〇はあり得る、等)。
●力説は、贈与であれば〇〇である、の対偶である、〇〇でないのであれば贈与ではない、と言えれば良い。
●事実については、時的要素に注意。
●実務:有利な事実→不利な事実をつぶす。重要な事実から記載する(時系列ではない。)。
●真偽不明にすれば足りるか否か、も視点としては持っておく。そこまで問われていなくとも。
【答案例】
第1 設問1
1.小問(1)●留意:抹消登記は抹消のみ。移転登記は原因も登記事項(不登法59条3号)。
被告は、原告に対し、甲土地について、平成15年12月1日贈与を原因とする所有権移転登記手続きをせよ。
2.小問(2)
(1)結論
足りる。
(2)理由
贈与契約(549条)に基づく債権的登記請求権なので。●検討:諾成契約。他人物贈与(559条、561条)も有効。は、必要?●理解:物権的、なら、相手方の登記も。
第2 設問2
1.小問(1)
(1)ア.Xは、平成25年12月1日経過時、甲土地を占有していた。
(2)イ.甲土地について、(別紙登記目録記載●認識:なしでOK)Y名義の所有権移転登記が存在する。
2.小問(2)
大枠:訴訟物は・・・。よって、(1)Xの甲土地所有、及び(2)Y名義の所有権移転登記の存在
(1)民法162条2項:①所有の意思、②平穏・公然、③「他人の物」、④10年間占有、⑤占有開始時に善意、⑥無過失●6つ、及び⑦援用の意思表示(145条)
・186条1項(①②⑤〇)
・186条2項(④としては、両端のみで〇)
・自己物の時効取得可(判例)(③〇)●理解:実体法上の要件とならない、という理解でOK
・無過失は規範的要件→具体的な評価根拠事実主張
・不確定効果説(停止条件説)→要援用
よって、両端、無過失(占有開始時)、援用●3つ
(2)そして、被告名義の所有権移転登記の存在
(3)あ
よって、必要十分。●認識:問題文のナンバリングと上記ナンバリングを個別対応されるのがベスト
3.小問(3)
・不適切
・「占有開始の時」(民法162条2項)平成15年12月1日の事情ではない。評価根拠事実となりえない。●時的要素
第3 設問3
・取得時効の請求原因に対し、他主占有権限の抗弁を主張●贈与との関係では否認となってしまう。
・Yは、Xに対し、平成15年12月1日、甲土地を期間の定めなく無償で貸し渡した(使用貸借・民法593条)。
第4 設問4
通常はあるが。
・書類なし
・登記なし
・贈与税の申告なし●理解:弱いが一応。
・登記済み証は便宜上(取り壊し)
・税金・建築費用は(贈与ではなく)将来の相続の(或いは生活費の?)見返り。
・生前贈与の積極的理由なし。cf.A
(・贈与の意思表示せず「貸してやる」●理解:反対主張あり、あまり。)
以上より、贈与の事実はない。
第5 設問5
1.・規程22条1項(cf.21条が目的)
・22条2項(●その趣旨からOK?)
・36条、44条:依頼者の自己決定権⇒最低限、要所要所では。
・45条(cf.民法646条)
2.あ:打ち合わせは良いが。結果については。実際Xとはトラブル。
以上