民法(H23)
【問題文】
Aは,平成20年3月5日,自己の所有する甲土地について税金の滞納による差押えを免れるた
め,息子Bの承諾を得て,AからBへの甲土地の売買契約を仮装し,売買を原因とするB名義の所
。 , , , , ,有権移転登記をした 次いで Bは Aに無断で 甲土地の上に乙建物を建築し 同年11月7日
乙建物についてB名義の保存登記をし,同日から乙建物に居住するようになった。
Bは,自己の経営する会社の業績が悪化したため,その資金を調達するために,平成21年5月
23日,乙建物を700万円でCに売却し,C名義の所有権移転登記をするとともに,同日,Cと
の間で,甲土地について建物の所有を目的とする賃貸借契約(賃料月額12万円)を締結し,乙建
物をCに引き渡した。この賃貸借契約の締結に際して,Cは,甲土地についてのAB間の売買が仮
装によるものであることを知っていた。
その後,さらに資金を必要としたBは,同年10月9日,甲土地をDに代金1000万円で売却
し,D名義の所有権移転登記をした。この売買契約の締結に際して,Dは,甲土地についてのAB
間の売買が仮装によるものであることを知らず,それを知らないことについて過失もなかった。
同年12月16日,Aが急死し,その唯一の相続人であるBがAの一切の権利義務を相続した。
この場合において,Dは,Cに対し,甲土地の所有権に基づいて,甲土地の明渡しを求めることが
できるかを論ぜよ。
【メモ】
●まず、だれが保護されるべきか、そうではないか、を結論付ける。
●割り切りが大切。シンプルに。
●仮に順次承継説に立つ場合、CD両方に負う信義則上の義務のうち、Dが優先、となるはず。
●Dは乙建物についてのC名義登記を認識していたはず。検討。
●借地借家法はポイントではない。対抗要件ではなく、借地権自体が問題。文言は変えるか。
●注意:他人物賃貸借の場合、116条の適用は当然には予定されていない。債権的責任追及のみ。無権代理と異なる。
●Cに対する信義則か、Dに対する保護(116条但書)か、の問題にすらならないが。なっても面白い。
●相続後、依然としてBが債権上の履行義務を負うとの考え方もありうるが、物権上は社会通念上履行不能。
●確認:無権代理人の本人相続の場合、判例(最判S40.6.18)は資格融合説。らしい。
【答案例】
第1 ABD間の法律関係
AB間の甲土地の売買は仮装譲渡(94条1項)にあたり、(所有者たるAの承諾が社会通念上想定し難いBD間の他人物売買(561条)に過ぎず)原則として無効である。
しかし、Dは、外観保護規定である94条2項により、当該仮装に基づき独立の法律上の利害関係を有するに至った善意無過失の第三者として、甲土地の所有権を取得する。
第2 ABC間の法律関係
1.Bは甲土地の所有者ではないため、BC間の賃貸借契約は(外見上は借地借家法10条1項の対抗要件を備えているが)Dには対抗できない。また、Cは、本件仮装譲渡につき悪意なので、94条2項による保護も受けない。
(1)もっとも、Aの死亡によりBが唯一の相続人として甲土地を相続(882条、887条1項、896条本文)していることから、AC間の賃貸借契約も有効とならないか、他人物賃貸人が本人を相続した場合の規律が問題となる。
イ.●他人物賃貸人の本人相続(信義則(1条2項)上、追認(116条本文)拒絶不可)
ロ.あ
よって、Cは、Aとの関係においては、賃借権を取得するかに思われる。
(2)しかし、仮にDが平成21年10月9日の時点で甲土地の所有権をDがAから直接承継していた場合、その後のAB相続に関わらずBが甲土地の所有権者であった時期は存在しないこととなり、上記追認によってもCは甲土地の賃借権を取得することはない。
イ.●94条2項に基づく承継の法的性質(判例は直接承継。理由(学説?):①私的自治から必要最小限、②文言も「対抗することができない。」とのみ)
ロ.あ
よって、Cは結局賃借権を取得しない。
第3 結論
以上より、所有権者たるDは、甲土地につき所有権移転登記を受けていることから、無権利者たるCに対し、甲土地の明渡しを求めることができる。
以上