商法(R6)
【問題文】
[商 法]
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、住宅用インテリアの企画、製造、販売等を業とする大会社でない取締役会設置会社であり、会計監査人設置会社でない監査役設置会社である。甲社の定款には、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について取締役会の承認を要すること、定時株主総会の議決権の基準日は毎年12月31日とすること、事業年度は毎年1月1日から12月31日までの1年とすることが定められている。甲社の発行済株式の総数は1000株であり、令和5年12月31日の株主名簿によれば、創業者であるAが500株を、BとCが150株ずつを、Aの親族であるDとEが100株ずつを、それぞれ保有していた。甲社の創業以来、Aが代表取締役を、BとCが取締役を、Fが監査役を、それぞれ務め、DとEは甲社の日常の経営に関わっていない。
2.Dは、令和6年2月頃、その保有する甲社の株式の全部(以下「本件株式」という。)を売却して家計の足しにしたいとAに相談した。Aは、甲社が同年3月31日に本件株式を1株当たり10万円(総額1000万円)で買い取ることとし、同月開催予定の甲社の定時株主総会において、そのことを取り上げるとDに約束した。
3.甲社は、会社法上必要な手続を経て、令和6年3月31日に、Dから、本件株式を総額1000万円で買い取った。その過程で、Aは、同月に開催された甲社の定時株主総会において、「本総会において適法に確定した計算書類に基づいて計算したところ、令和6年3月31日における分配可能額は1200万円以上あり、甲社が本件株式を買い取ることに問題はない。」と説明し、甲社による本件株式の取得の承認を受けた。
4.ところが、令和6年7月になって、甲社の預金口座の記録を照会していたBが上記3の計算書類の基礎となった令和5年中の会計帳簿に過誤があったことを偶然発見した。当該過誤は、甲社において会計帳簿をほぼ単独で作成していた経理担当従業員Gが、一部の取引について会計帳簿への記載を失念したために発生したものであった。Fによる会計監査は、例年、会計帳簿が適正に作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであったため、会計監査では当該過誤が発見されず、上記3の定時株主総会においても、Fは疑義を述べなかった。Aは、甲社の経理及び財務を担当しており、計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行っていたが、その基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下であるGに任せきりにして関与しておらず、Gによる一部の取引についての会計帳簿への記載の失念に気付かなかった。当該過誤を修正したところ、令和6年3月31日における分配可能額は800万円であった。
〔設問1〕
上記1から4までを前提として、次の⑴及び⑵に答えなさい。なお、本件株式の取得価格は適正な金額であったものとする。
⑴ 甲社による本件株式の買取りは有効かについて、論じなさい。
⑵ 甲社による本件株式の買取りに関して、A、D及びFは、甲社に対し、会社法上どのような責任を負うかについて、論じなさい。
下記5以下においては、上記2から4までの事実は存在しないことを前提として、〔設問2〕に答えなさい。
5.Aは、令和6年5月頃、とある同族企業の社長から、親族である株主が死亡するたびに株式が多数の相続人に分散したために会社の管理が厄介になったという話を聞いて心配になり、全ての甲社の株式を自分の手元で保有したいと考えるようになった。AがB、C、D及びEに個別に相談したところ、B、C及びDは対価次第で甲社の株式の売却に応じると回答したが、Eは「長年にわたり株主であった自分を、さしたる理由もなく甲社から排除しようというのか。」と不満を強く述べ、売却を固く拒否した。
6.Aは、旧知の税理士Hに甲社の株式の評価額の算定を依頼し、「1株当たり6万円から10万円までの範囲が甲社の株式の適正な評価額である。」との意見を得た。そこで、Aは、令和6年7月31日までに、甲社の取締役会の承認を受け、B、C及びDから、その保有する甲社の株式を1株当たり10万円で適法に取得し、当該株式について、株主名簿の名義書換が行われた。他方、Aは、同年8月以降、Eに対し、特別支配株主の株式等売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)をすることとし、甲社に対し、その旨及び株式売渡対価を1株当たり6万円、取得日を同年9月20日とすることなどの会社法所定の事項を通知し、同年8月20日開催の甲社の取締役会において、その承認を受けた。甲社は、同月27日に、会社法所定の事項をEに通知し、また、本件売渡請求に関する事項を記載した会社法所定の書面を甲社本店に備え置いた。その通知を受けたEは、Aの都合で一方的に甲社から排除されることに不満を強く抱き、さらに、B、C及びDからの株式の取得の事実を知り、その取得価格が本件売渡請求における株式売渡対価の額と異なることに対して不満を一層強めた。
〔設問2〕
令和6年9月2日時点において、Eの立場において会社法上どのような手段を採ることが考えられるかについて、論じなさい。
【メモ】
●自己評価:D
●有効・無効は少数説(有効)で書いた。
●423落とし。
【答案例】
第1 設問1
1.小問(1)
有効。
463条1項は有効を前提。責任あり(462条以下)。株主有限責任(会社法(以下法名略)104条)からの債権者保護のための基礎は崩れない。
2.小問(2)
A:462条1項1号の提案取締役、429条2項1号イ(●誤りだが、具体的事実は記載)
B:462条柱書の物
F:429条2項3号(●誤りだが、具体的事実は記載)
第2 設問2
取締役会承認あり、通知期日20日遵守(179条の4)、事前の備置あり(179条の5)
1.179条の8:株主平等原則(109条)違反
2.対価のみに不満なら、179条の10
以上