(民事)法律実務基礎科目(H27)

【問題文】

(〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,14:10:18:8)
 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
 なお,別紙の不動産売買契約書「不動産の表示」記載の土地を以下「本件土地」といい,解答においても,「本件土地」の表記を使用してよい。
【Xの相談内容】
「私は,平成26年9月1日,Yが所有し,占有していた本件土地を,Yから,代金250万円で買い,同月30日限り,代金の支払と引き換えに,本件土地の所有権移転登記を行うことを合意しました。
 この合意に至るまでの経緯についてお話しすると,私は,平成26年8月中旬頃,かねてからの知り合いであったAからYが所有する本件土地を買わないかと持ちかけられました。当初,私は代金額として200万円を提示し,Yの代理人であったAは350万円を希望したのですが,同年9月1日のAとの交渉の結果,代金額を250万円とする話がまとまったので,別紙のとおりの不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成しました。Aは,その交渉の際に,Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが,本件売買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。Aは,その場で,交渉の結果を踏まえて,金額欄と日付欄に手書きで記入をし,その後で,私が自分の記名右横に実印を押印しました。
 平成26年9月30日の朝,Aが自宅を訪れ,登記関係書類は夕方までに交付するので,代金を先に支払ってほしいと懇願されました。私は,旧友であるAを信用して,Yの代理人であるAに対し,本件土地の売買代金額250万円全額を支払いました。ところが,Aは登記関係書類を持ってこなかったので,何度か催促をしたのですが,そのうちに連絡が取れなくなってしまいました。そこで,私は,同年10月10日,改めてYに対し,所有権移転登記を行うように求めましたが,Yはこれに応じませんでした。
 このようなことから,私は,Yに対し,本件土地の所有権移転登記と引渡しを請求したいと考えています。」

 上記【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,平成27年1月20日,Xの訴訟代理人として,Yに対し,本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権を訴訟物として,本件土地の所有権移転登記及び引渡しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起することにした。
 弁護士Pは,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)を作成し,その請求の原因欄に,次の①から④までのとおり記載した。なお,①から③までの記載は,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要かつ十分であることを前提として考えてよい。
 ① Aは,平成26年9月1日,Xに対し,本件土地を代金250万円で売った(以下「本件売買契約」という。)。
 ② Aは,本件売買契約の際,Yのためにすることを示した。
 ③ Yは,本件売買契約に先立って,Aに対し,本件売買契約締結に係る代理権を授与した。
 ④ よって,Xは,Yに対し,本件売買契約に基づき,(以下記載省略)を求める。
 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
 (1)  本件訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(付随的申立てを記載する必要はない。)。
 (2) 弁護士Pが,本件訴状の請求を理由づける事実として,上記①から③までのとおり記載したのはなぜか,理由を答えなさい。

〔設問2〕
 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
I 「私は,Aに対し,私が所有し,占有している本件土地の売買に関する交渉を任せましたが,当初希望していた代金額は350万円であり,Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。その後,Aから交渉の経過を聞いたところ,Xは代金額を上げてくれそうだということでした。そこで,私は,Aに対し,280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。しかし,私が,平成26年9月1日までに,Aに対して本件土地を250万円で売却することを承諾したことはありません。ですから,Xが主張している本件売買契約は,Aの無権代理行為によるものであって,私が本件売買契約に基づく責任を負うことはないと思います。」
II 「Xは,平成26年10月10日に本件売買契約に基づいて,代金250万円を支払ったので,所有権移転登記を行うように求めてきました。しかし,私は,Xから本件土地の売買代金の支払を受けていません。そこで,私は,念のため,Xに対し,同年11月1日到着の書面で,1週間以内にXの主張する本件売買契約の代金全額を支払うように催促した上で,同月15日到着の書面で,本件売買契約を解除すると通知しました。ですから,私が本件売買契約に基づく責任を負うことはないと思います。」

 上記【Yの相談内容】を前提に,弁護士Qは,本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。
 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。なお,各問いにおいて抗弁に該当する具体的事実を記載する必要はない。
(1)  弁護士Qが前記Iの事実を主張した場合,裁判所は,その事実のみをもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結論と理由を述べなさい。
(2)  弁護士Qが前記IIの事実を主張した場合,裁判所は,その事実のみをもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結論と理由を述べなさい。

〔設問3〕
 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。また,その口頭弁論期日において,弁護士Pは,XとAが作成した文書として本件売買契約書を書証として提出し,これが取り調べられたところ,弁護士Qは,本件売買契約書の成立を認める旨を陳述し,その旨の陳述が口頭弁論調書に記載された。
 そして,本件訴訟の弁論準備手続が行われた後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,Xは,【Xの供述内容】のとおり,Yは,【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した(Aの証人尋問は実施されていない。)。
 その後,弁護士Pと弁護士Qは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することになった。

【Xの供述内容】
「私は,本件売買契約に関する交渉を始めた際に,Aから,Aが本件土地の売買に関するすべてをYから任されていると聞きました。また,Aから,それ以前にも,Yの土地取引の代理人となったことがあったと聞きました。ただし,Aから代理人であるという委任状を見せられたことはありません。
 当初,私は代金額として200万円を提示し,Yの代理人であったAは350万円を希望しており,双方の希望額には隔たりがありました。その後,Aは,Yの希望額を300万円に引き下げると伝えてきたので,私は,250万円でないと資金繰りが困難であると返答しました。私とAは,平成26年9月1日に交渉したところ,Aは,何とか280万円にしてほしいと要求してきました。しかし,私が,それでは購入を諦めると述べたところ,最終的には,本件土地の代金額を250万円とする話がまとまりました。
 Aは,その交渉の際に,Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが,本件売買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。Aは,Yが実印を押印したのは250万円で本件土地を売却することを承諾した証であると述べていたので,Aが委任状を提示していないことを気にすることはありませんでした。そして,Aは,その場で,金額欄と日付欄に手書きで記入をし,その後で,私が自分の記名右横に実印を押印しました。」

【Yの供述内容】
「私は,Aに本件土地の売買に関する交渉を任せましたが,当初希望していた代金額は350万円であり,Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。私は,それ以前に,Aを私の所有する土地取引の代理人としたことがありましたが,その際はAを代理人に選任する旨の委任状を作成していました。しかし,本件売買契約については,そのような委任状を作成したことはありません。
 その後,私が希望額を300万円に値下げしたところ,Aから,Xは代金額を増額してくれそうだと聞きました。たしか,250万円を希望しており,資金繰りの関係で,それ以上の増額は難しいという話でした。
 そこで,私は,Aに対し,280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。しかし,私が,本件土地を250万円で売却することを承諾したことは一度もありません。
 Aから,平成26年9月1日よりも前に,完成前の本件売買契約書を見せられましたが,金額欄と日付欄は空欄であり,売主欄と買主欄の押印はいずれもありませんでした。本件売買契約書の売主欄には私の実印が押印されていることは認めますが,私が押印したものではありません。私は,実印を自宅の鍵付きの金庫に保管しており,Aが持ち出すことは不可能です。ただ,同年8月頃,別の取引のために実印をAに預けたことがあったので,その際に,Aが勝手に本件売買契約書に押印したに違いありません。もっとも,その別の取引は,交渉が決裂してしまったので,その取引に関する契約書を裁判所に提出することはできません。Aは,現在行方不明になっており,連絡が付きません。」

 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1)  裁判所が,本件売買契約書をAが作成したと認めることができるか否かについて,結論と理由を記載しなさい。
(2)  弁護士Pは,第3回口頭弁論期日までに提出予定の準備書面において,前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のXYの本人尋問における供述,並びに本件売買契約書に基づいて,次の【事実】が認められると主張したいと考えている。弁護士Pが,上記準備書面に記載すべき内容を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい(なお,解答において,〔設問2〕の【Yの相談内容】については考慮しないこと。)。
【事実】
「Yが,Aに対し,平成26年9月1日までに,本件土地を250万円で売却することを承諾した事実」

〔設問4〕
 弁護士Pは,訴え提起前の平成26年12月1日,Xに相談することなく,Yに対し,差出人を「弁護士P」とする要旨以下の内容の「通知書」と題する文書を,内容証明郵便により,Yが勤務するZ社に対し,送付した。

通知書
平成26年12月1日
被通知人Y
弁護士P
 当職は,X(以下「通知人」という。)の依頼を受けて,以下のとおり通知する。
 通知人は,平成26年9月1日,貴殿の代理人であるAを通じて,本件土地を代金250万円で買い受け,同月30日,Aに対し,売買代金250万円全額を支払い,同年10月10日,貴殿に対し,本件土地の所有権移転登記を求めた。
 ところが,貴殿は,「売買代金を受領していない。」などと虚偽の弁解をして,不当に移転登記を拒否している。その不遜極まりない態度は到底許されるものではなく,貴殿はAと共謀して上記代金をだまし取ったとも考えられる。
 以上より,当職は,本書面において,改めて本件土地の所有権移転登記に応ずるよう要求する。
 なお,貴殿が上記要求に応じない場合は,貴殿に対し,所有権移転登記請求訴訟を提起するとともに,刑事告訴を行う所存である。
以 上

以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Pの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して答えなさい。

別紙
(注) 斜体部分は手書きである。
不動産売買契約書
 売主Yと買主Xは,後記不動産の表示記載のとおりの土地(本件土地)に関して,下記条項のとおり,売買契約を締結した。

第1条 Yは本件土地をXに売り渡し,Xはこれを買い受けることとする。
第2条 本件土地の売買代金額は250 万円とする。
第3条 Xは,平成2630 日限り,Yに対し,本件土地の所有権移転登記と引き換えに,売買代金全額を支払う。
第4条 Yは,平成26 30 日限り,Xに対し,売買代金全額の支払と引き換えに,本件土地の所有権移転登記を行う。
(以下記載省略)
 以上のとおり契約を締結したので,本契約書を弐通作成の上,後の証としてYXが各壱通を所持する。
平成26
売 主 住 所 ○○県○○市○○
氏 名 Y Y印
買 主 住 所 ○○県○○市○○
氏 名 X X印

不動産の表示
所 在 ○○市○○
地 番 ○○番
地 目 宅地
地 積 ○○○.○○㎡

【メモ】

●まずは訴訟物から検討する。書くかは別論。
●訴訟物:「売買契約に基づく所有権移転登記請求権」・同「引渡請求権」
●確認:「引き渡せ」か、「明け渡せ」か。●どちらでも良いらしい(O島)。
●①条文を適示しつつ、実体法上の要件を全て挙げる(必要性)。その上で、②条文を適示しつつ、追加的に必要な主張も挙げる(必要性2)。例:せりあがり。最後に、③条文を適示しつつ、それらの中で訴訟上主張が不要な主張を挙げる(十分性)。例:法律上の事実推定。
●規程を解釈し、事実を評価し、あてはめる。
●(典型契約に限らず)民法99条等も「冒頭規定」というらしい。
●準備書面:(1)相手に有利な事実に対する反論、(2)自己に有利な事実を主張
●110では?(280を下回り250なので)
●配点に沿った論述量
●文書の作成者⇒二段の推定●文書の作成者でない者については、二段の推定は問題とならない。
●二段の推定は、立証責任の転換までは生じていない。真偽不明にするために必要な反証で足りる。

【答案例】

第1 設問1
1.小問(1)
・被告は、原告に対し、本件土地((●別紙物権目録記載の土地?)について、平成26年9月1日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
 ●注意:抹消登記(例:「乙は、別紙登記目録記載の所有権移転登記を抹消せよ。」)と異なり、「対し」が必要。登記原因も登記事項(不登法59条3項)。
・被告は、原告に対し、本件土地(●同上)を引き渡せ。
2.小問(2)
訴訟物は、代理人締結に係る売買契約に基づく請求権(2個)であるから、
・99条1項:①法律行為(行為者は代理人)、②顕名(甲的効果帰属のため)、③先立つ代理兼授与(注意点:先立つこと。事後なら追認。)
・555条:2点(代金(の決定方法)・目的物)(注意点:支払期日の合意は要件事実ではない)
⇒あ(対応させる:ア①(含む555(250万円も))・イ②・ウ③)

第2 設問2
1.小問(1)
抗弁とは、請求原因事実と両立し、その法律効果を覆滅する事実主張。
・抗弁として扱うべきではない。
・無権代理は請求原因③と両立しない。理由付き否認。
よって、積極否認(民訴規則79条3項)。
2.小問(2)
・抗弁として扱うべきではない。
・解除(541条本文):①催告、②相当期間、③意思表示、④先立つ反対給付の履行提供(or先履行の合意)●4つ
・請求原因により同時履行の抗弁権(民法533条)が基礎付けられる。
・その存在効果により、履行遅滞の違法性が阻却される。
・①②③はあるも、④の弁済の提供を主張せず。主張自体失当。

第3 設問3
1.小問(1)●参考:題意の曖昧性について批判あり(同感)。
・できる。
・署名代理だが、「Y代理人A」とするところ、「代理人A」との顕名を省略した形式の問題に過ぎない。
●別解:文書の成立につき、自白成立(補助事実)●確認:主要事実については、審判排除効(裁判所)⇒不可撤回効(自白者)⇒不要証効(民訴法179条)(相手方)。それ以外は、不要証効(民訴法179条)のみ(相手方のみ)。裁判所も自白者も拘束されない。●確認:前者について正しいが、後者について正しいか?、●認識:現場ではこちらになろう。
2.小問(2)●Xが作成者ではない以上、二段の推定は関係ない。
(●骨太スジ:供述と契約書では当然契約書重視。そこで押印者がYかAかが重要。A持ち出しは不可能。可能性ある取引につき(出せないはずがない)証拠が出ていない。不存在認定。交渉経緯を踏まえ250と記載すべきところ。白紙に記名捺印交付ゆえAに交渉・決定権限を付与。供述は食い違うも、250万円の承諾をしたといえる。)
(1)Yは・・・と主張しているが。
・Aが捺印した時期(9月)と8月との話から、8月に押印はない。
(・資金繰り、を具体的に示していない。)
(2)更に、
・AかYしかない。金庫の存在から。
・空欄補充せず(重要な事項にも関わらず)
・Aが証拠(相手方契約書等)出せず。
(・委任状は作成・交付せず。しかし、280の代理権は与えていた。よって、意味のない議論。むしろ250で作成すべきだったとも。●認識:ただ、Aが提示をしないだろう。やはり無意味。)
よって、主張は認められない。
(3)
以上より、契約書は真正に成立(228条4項)。

第4 設問4●検討:名誉棄損・強要等まで言及。
(●検討:規程52は間違い。まだQが登場していない。(「交渉」か?))
①Xに相談なし。・同22条1項・2項、36条
②Yの勤務先宛。交渉相手はAでありYの関与の詳細不明にも関わらず。●参考:民訴法103条2項が可能かの事情も不明。
③記載内容。・同4条、5条、6条(●脅迫罪にすら)

以上

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