(民事)法律実務基礎科目(H25)

【問題文】

(〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,12:5:8:17:8)
 司法試験予備試験用法文及び本問末尾添付の資料を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「私は,平成17年12月1日から「マンション甲」の301号室(以下「本件建物」といいます。)を所有していたAから,平成24年9月3日,本件建物を代金500万円で買い受け(以下「本件売買契約」といいます。),同日,Aに代金500万円を支払い,本件建物の所有権移転登記を具備しました。
 本件建物には現在Yが居住していますが,Aの話によれば,Yが本件建物に居住するようになった経緯は次のとおりです。
 Aは,平成23年4月1日,Bに対し,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を引き渡しました。ところが,Bは,平成24年4月2日,Bの息子であるYに対し,Aの承諾を得ずに,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円とする賃貸借契約(以下「本件転貸借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を引き渡しました。こうして,Yが本件建物に居住するようになりました。
 そこで,Aは,同年7月16日,Bに対し,Aに無断で本件転貸借契約を締結したことを理由に,本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をし,数日後,Yに対し,本件建物の明渡しを求めました。しかし,Yは,本件建物の明渡しを拒否し,本件建物に居住し続けています。
 このような次第ですので,私は,Yに対し,本件建物の明渡しを求めます。」

 弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として,本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。そして,弁護士Pは,その訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,次の各事実を主張した(なお,以下では,これらの事実が請求を理由づける事実となることを前提に考えてよい。)。
 ① Aは,平成23年4月1日当時,本件建物を所有していたところ,Xに対し,平成24年9月3日,本件建物を代金500万円で売ったとの事実
 ② Yは,本件建物を占有しているとの事実
 上記各事実が記載された訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談をした。Yの相談内容は次のとおりである。

【Yの相談内容】
「Aが平成23年4月1日当時本件建物を所有していたこと,AがXに対して平成24年9月3日に本件建物を代金500万円で売ったことは,Xの主張するとおりです。
 しかし,Aは,私の父であるBとの間で,平成23年4月1日,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円で賃貸し(本件賃貸借契約),同日,Bに対し,本件賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡しました。そして,本件賃貸借契約を締結する際,Aは,Bに対し,本件建物を転貸することを承諾すると約したところ(以下,この約定を「本件特約」といいます。),Bは,本件特約に基づき,私との間で,平成24年4月2日,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円で賃貸し(本件転貸借契約),同日,私に対し,本件転貸借契約に基づき,本件建物を引き渡しました。その後,私は,本件建物に居住しています。
 このような次第ですので,私にはXに本件建物を明け渡す義務はないと思います。」

 そこで,弁護士Qは,答弁書において,Xの主張する請求を理由づける事実を認めた上で,占有権原の抗弁の抗弁事実として次の各事実を主張した。
 ③ Aは,Bに対し,平成23年4月1日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で賃貸したとの事実。
 ④ Aは,Bに対し,同日,③の賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。
 ⑤ Bは,Yに対し,平成24年4月2日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で賃貸したとの事実。
 ⑥ Bは,Yに対し,同日,⑤の賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。
 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 本件において上記④の事実が占有権原の抗弁の抗弁事実として必要になる理由を説明しなさい。
(2) 弁護士Qが主張する必要がある占有権原の抗弁の抗弁事実は,上記③から⑥までの各事実だけで足りるか。結論とその理由を説明しなさい。ただし,本設問においては,本件転貸借契約締結の背信性の有無に関する事実を検討する必要はない。

〔設問2〕
 平成24年11月1日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Qは,本件特約があった事実を立証するための証拠として,次のような賃貸借契約書(斜体部分は全て手書きである。以下「本件契約書」という。)を提出した。

賃貸借契約書
1 AはBに対し,本日から,Aが所有する「マンション甲」301号室を賃貸し,Bはこれを賃借する。
2 賃料は1か月金5万円とし,Bは,毎月末日限り翌月分をAに支払うものとする。
3 本契約書に定めがない事項は,誠意をもって協議し,解決するものとする。
4 Aは,Bが上記建物を転貸することを承諾する。
以上のとおり,契約が成立したので,本書を2通作成し,AB各1通を保有する。
平成23年4月1日
賃貸人A A印
賃借人B B印

 本件契約書について,弁護士PがXに第1回口頭弁論期日の前に確認したところ,Xの言い分は次のとおりであった。
【Xの言い分】
 「Aに本件契約書を見せたところ,Aは次のとおり述べていました。
 『本件契約書末尾の私の署名押印は,私がしたものです。しかし,本件契約書に記載されている本件特約は,私が記載したものではありません。本件特約は,B又はYが,後で書き加えたものだと思います。』」

 そこで,弁護士Pは,第1回口頭弁論期日において,本件契約書の成立の真正を否認したが,それに加え,本件特約がなかった事実を立証するための証拠の申出をすることを考えている。次回期日までに,弁護士Pが申出を検討すべき証拠には,どのようなものが考えられるか。その内容を簡潔に説明しなさい。なお,本設問に解答するに当たっては,次の〔設問3〕の⑦の事実を前提にすること。

〔設問3〕
 本件の第1回口頭弁論期日の1週間後,弁護士Qは,Yから次の事実を聞かされた。
 ⑦ 本件の第1回口頭弁論期日の翌日にBが死亡し,Yの母も半年前に死亡しており,Bの相続人は息子のYだけであるとの事実
 これを前提に,次の各問いに答えなさい。
(1) 上記⑦の事実を踏まえると,弁護士Qが主張すべき占有権原の抗弁の内容はどのようなものになるか説明しなさい。なお,当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。
(2) 弁護士Pは,(1)の占有権原の抗弁に対して,どのような再抗弁を主張することになるか。その再抗弁の内容を端的に記載しなさい。なお,当該再抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。

〔設問4〕
 本件においては,〔設問3〕の(1)の占有権原の抗弁及び(2)の再抗弁がいずれも適切に主張されるとともに,〔設問1〕の①から⑥までの各事実及び〔設問3〕の⑦の事実は,全て当事者間に争いがなかった。そして,証拠調べの結果,裁判所は,次の事実があったとの心証を形成した。
【事実】
 本件建物は,乙市内に存在するマンションの一室で,間取りは1DKである。Aは,平成17年12月1日,本件建物を当時の所有者から賃貸目的で代金600万円で買い受け,その後,第三者に賃料1か月8万円で賃貸していたが,平成22年4月1日から本件建物は空き家になっていた。
 平成23年3月,Aは,長年の友人であるBから,転勤で乙市に単身赴任することになったとの連絡を受けた。AがBに転居先を確認したところ,まだ決まっていないとのことであったため,Aは,Bに本件建物を紹介し,本件賃貸借契約が締結された。なお,賃料は,友人としてのAの計らいで,相場より安い1か月5万円とされた。
 平成24年3月,Bの長男であるY(当時25歳)が乙市内の丙会社に就職し,乙市内に居住することになった。Yは,22歳で大学を卒業後,就職もせずに遊んでおり,平成24年3月当時,貸金業者から約150万円の借金をしていた。そこで,Bは,Yが借金を少しでも返済しやすくするため,Aから安い賃料で借りていた本件建物をYに転貸し,自分は乙市内の別のマンションを借りて引っ越すことにした。こうして,本件転貸借契約が締結された。
 本件転貸借契約後も,BはAに対し,約定どおり毎月の賃料を支払ってきたが,同年7月5日,本件転貸借契約の締結を知ったAは,同月16日,Bに対し,本件転貸借契約を締結したことについて異議を述べた。これに対し,Bは,転貸借契約を締結するのに賃貸人の承諾が必要であることは知らなかった,しかし,賃料は自分がAにきちんと支払っており,Aに迷惑はかけていないのだから,いいではないかと述べた。Aは,Bの開き直った態度に腹を立て,貸金業者から借金をしているYは信用できない,Yに本件建物を無断で転貸したことを理由に本件賃貸借契約を解除すると述べた。しかし,Bは,解除は納得できない,せっかくYが就職して真面目に生活するようになったのに,解除は不当であると述べた。
 その後,Bは,無断転貸ではなかったことにするため,本件契約書に本件特約を書き加えた。そして,Bは,Yに対し,本件転貸借契約の締結についてはAの承諾を得ていると嘘をつき,Yは,これを信じて本件建物に居住し続けた。

 この場合,裁判所は,平成24年7月16日にAがした本件賃貸借契約の解除の効力について,どのような判断をすることになると考えられるか。結論とその理由を説明しなさい。なお,上記事実は全て当事者が口頭弁論期日において主張しているものとする。

〔設問5〕
 弁護士Pは,平成15年頃から継続的にAの法律相談を受けてきた経緯があり,本件についても,Aが本件転貸借契約の締結を知った翌日の平成24年7月6日,Aから相談を受けていた。その際,弁護士Pは,Aに対し,本件建物を売却するのであれば,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除してYから本件建物の明渡しを受けた後の方が本件建物を売却しやすいとアドバイスした。
 その後,Aは,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除したが,Yから本件建物の明渡しを受ける前に本件建物をXに売却した。その際,Aは,Xから,本件建物の明渡しをYに求めようと思うので弁護士を紹介してほしいと頼まれ,本件の経緯を知っている弁護士PをXに紹介した。
 弁護士Pは,Aとの関係から,Xの依頼を受けざるを得ない立場にあるが,受任するとした場合,受任するに当たってXに何を説明すべきか(弁護士報酬及び費用は除く。)について述べなさい。

【メモ】

●訴訟物:「所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権」(賃貸借契約終了に基づく、ではない。)
●187条1項・2項の話ではない。●検討
●署名・押印の場合には二段の推定は関係ない(か?)。●確認
●反対事情にも言及し、説得的に論証できるのがベター。

【答案例】

第1 設問1
1.小問(1)
大枠:原賃貸借が有効に成立、且つ転貸借が有効に成立
・占有が正当な権限に基づく適法なものであると示すことになる。
・対抗力も必要(借地借家法1条・31条)。
2.小問(2)
・賃貸人の承諾必要
・612条1項。転借人に有利な事実、かつ賃貸人による消極的事実の証明は負担が大き過ぎる(当事者間の公平)。

第2 設問2
(1)●二段の推定(一応機能する旨の指摘)
(2)二段目の推定を覆す必要がある。
・書証:A所持の契約書原本
・人証:契約当事者として認識あるはず。ゆえAの証人尋問(民訴法190条)●規則106条
・書証:Bの筆跡の対照(民訴法229条2項)●検討:物証?Bのものと判っても意味あるか?(A所持の契約書が紛失として)

第3 設問3
1.小問(1)
Bの死亡に基づき、YがBは賃借権を相続したこと(民法882条、887条1項、896条本文)に基づき、転借権は混同(520条本文)により消滅。そ(⑤⑥)の代わりに、相続した占有権限の抗弁。
2.小問(2)
無断転貸による賃貸借契約解除の抗弁(同612条2項)。
B死亡日たる平成24年11月2日より前の平成24年7月16日に解除済み。

第4 設問4
(1)原則:612条2項
しかし、弱者たる賃借人保護のため、転貸借が背信行為と認めるに足らない特段の事情があるか。●視点:転貸の動機・営利性、転借人の属性等
(2)本問では、
・BY親子・親密(動機はサポート。●認識:ゆえやむを得ない面がある等と評価も記載)
・使用態様変化なし。
・支払い問題なし。
・Bは?⇒悪意なし。●認識:過失もない?
・営利性なし。●留意:あり+他人、が特段の事情なしの典型例

・同居はせず。
・150万円借金→将来?Bが代わりに!?
・相場より安い5万円(友人なので)。実質的には第三者への転貸による借金返済。
なお、偽造・「嘘」の点は、H.24.7.16より後なので、無関係。
(3)結論
特段の事情がなく、解除は有効。

第5 設問5
(1)
解除が無効の場合には明渡不可、その場合、対A訴訟(民法565追及など)ではXの代理人にはなれない。
・「継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件」(規程28条2号)→AXの同意なければXの代理人になれず。
・その点も説明(規程29条1項、42条)。
(2)あ:担保責任(民法565条)等
よって、・・・。
●確認:受任後の話なので「同一の事件」(規程32条)ではない。●参照:「利益が相反する」(規程28条3号)
以上

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