刑法(H27)
【問題文】
以下の事例に基づき,甲,乙,丙及び丁の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲は,建設業等を営むA株式会社(以下「A社」という。)の社員であり,同社の総務部長として同部を統括していた。また,甲は,総務部長として,用度品購入に充てるための現金(以下「用度品購入用現金」という。)を手提げ金庫に入れて管理しており,甲は,用度品を購入する場合に限って,その権限において,用度品購入用現金を支出することが認められていた。
乙は,A社の社員であり,同社の営業部長として同部を統括していた。また,乙は,甲の職場の先輩であり,以前営業部の部員であった頃,同じく同部員であった甲の営業成績を向上させるため,甲に客を紹介するなどして甲を助けたことがあった。甲はそのことに恩義を感じていたし,乙においても,甲が自己に恩義を感じていることを認識していた。
丙は,B市職員であり,公共工事に関して業者を選定し,B市として契約を締結する職務に従事していた。なお,甲と丙は同じ高校の同級生であり,それ以来の付き合いをしていた。
丁は,丙の妻であった。
2 乙は,1年前に営業部長に就任したが,その就任頃からA社の売上げが下降していった。乙は,某年5月28日,A社の社長室に呼び出され,社長から,「6月の営業成績が向上しなかった場合,君を降格する。」と言い渡された。
3 乙は,甲に対して,社長から言われた内容を話した上,「お前はB市職員の丙と同級生なんだろう。丙に,お礼を渡すからA社と公共工事の契約をしてほしいと頼んでくれ。お礼として渡す金は,お前が総務部長として用度品を買うために管理している現金から,用度品を購入したことにして流用してくれないか。昔は,お前を随分助けたじゃないか。」などと言った。甲は,乙に対して恩義を感じていたことから,専ら乙を助けることを目的として,自己が管理する用度品購入用現金の中から50万円を謝礼として丙に渡すことで,A社との間で公共工事の契約をしてもらえるよう丙に頼もうと決心し,乙にその旨を告げた。
4 甲は,同年6月3日,丙と会って,「今度発注予定の公共工事についてA社と契約してほしい。もし,契約を取ることができたら,そのお礼として50万円を渡したい。」などと言った。丙は,甲の頼みを受け入れ,甲に対し,「分かった。何とかしてあげよう。」などと言った。
丙は,公共工事の受注業者としてA社を選定し,同月21日,B市としてA社との間で契約を締結した。なお,その契約の内容や締結手続については,法令上も内規上も何ら問題がなかった。
5 乙は,B市と契約することができたことによって降格を免れた。
甲は,丙に対して謝礼として50万円を渡すため,同月27日,手提げ金庫の用度品購入用現金の中から50万円を取り出して封筒に入れ,これを持って丙方を訪問した。しかし,丙は外出しており不在であったため,甲は,応対に出た丁に対し,これまでの経緯を話した上,「御主人と約束していたお礼のお金を持参しましたので,御主人にお渡しください。」と頼んだ。丁は,外出中の丙に電話で連絡を取り,丙に対して,甲が来訪したことや契約締結の謝礼を渡そうとしていることを伝えたところ,丙は,丁に対して,「私の代わりにもらっておいてくれ。」と言った。
そこで,丁は,甲から封筒に入った50万円を受領し,これを帰宅した丙に封筒のまま渡した。
【メモ】
●丁(妻)については、故意ある幇助道具(丙は間接正犯)とも考えられるが。
【答案例】
第1 甲の罪責
1.50万円を金庫から持ち出した行為につき、業務上横領罪(253条)が問題となる。
(1)「業務」あ〇
(2)「自己の占有する他人の財物」あ〇
(3)「横領」あ〇
以上より、業務上横領罪(253条)が成立する。
2.50万円を丁を介し丙に渡した行為
後述する丙の受託収賄罪(197条1項後段)に対応する「賄賂」の「供与」として、その前の…という「約束」と併せ、贈賄罪(198条)が成立。
3.以上より、業務上横領罪、及び贈賄罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
第2 乙の罪責
1.・・・から、業務上横領罪(253条)の共同正犯(60条)が成立するか。
(1)乙は、直接行為をしていない。そこで、かかる場合も正犯といえるか、共謀共同正犯の成否・判断基準が問題となる。
イ.●(①共謀。②正犯意思。③基づく実行)
ロ.あ:共同して実行〇
(2)しかし、乙は営業部長であり、占有をしていない。そこで、身分犯と共犯の規律が問題となる。
イ.●
ロ.あ:252条1項が成立(●判例:成立(253)、科刑(252条1項))
2.60、198条(上記①・②・③に該当)
3.60、253、及び60、198が成立し、それらは併合罪(45条)となる。
第3 丙の罪責
甲から50万円を受け取った行為
「請託を受けた」あ〇。「職務に関し」あ〇。「賄賂を収受」あ〇
よって、受託収賄罪が成立。
第4 丁の罪責
共謀共同正犯:あ〇(上記①・②・③を充足)公務員の妻に対し、「これまでの経緯を話した上」
よって、受託収賄罪の共同正犯(65条1項、197条1項後段)。
以上